「適材適所」の人材活用をいかに実現するか。各社の人事ビッグデータ活用を追う特集の第2回は、企業と求職者の最適なマッチングへ挑戦する大阪のスタートアップ企業アイプラグと、リクルートキャリア2社の取り組みを紹介する。

 3月1日、2017年卒の学生の採用活動が本格的に始まった。選考解禁日が昨年の8月1日から6月1日に前倒しとなり短期決戦になった。こうした採用業務でも人事ビッグデータを活用して、業務効率化や早期離職の防止を目指す取り組みが広がっている。

採用したい学生に直接アクセス

 住友電工子会社で自動車用部品製造・販売の住友電装(三重県四日市市)は2月、新卒採用に関してあるサイトを活用するようになった。企業から直接、学生にオファーを送ることができる新卒採用サイト「OfferBox(オファーボックス)」だ。

 OfferBoxは、アイプラグ(大阪市淀川区)が2012年9月にサービスを開始した。学生はOfferBoxに登録する際、年齢、性別や大学名、所有資格、留学経験といった情報のほかに、「大手企業に行きたい」「やってみたい仕事」などの希望や、思い出の画像や研究スライドなど自分がアピールしたい情報も登録できる。企業の人事担当者は面接したい学生の条件を入力することで、その学生の登録情報を閲覧し、学生に選考段階へのオファーを出す。

 住友電装の人材開発部採用グループの原田和貴氏は「学生からのエントリーがあって初めて採用活動が始まる従来の方法ではなく、学生に直接アクセスできる採用方法に興味を持ち、OfferBoxを利用するようになった」と話す。

 同社は既に約15人にオファーを出し、そのうち約12人から承諾の連絡をもらい、既に10人の学生とテレビ電話による面談を実施した。さらにそのうちの8人とは直接面接をした。

 毎年約100人(理系7割)の新卒を採用する住友電装では、OfferBoxの利用による採用目標は5人としている。ちなみに理系採用のうち学校推薦で30~40人採用している。

 原田氏は実際に利用してみて、「欲しいと思う学生に直接アクセスできるという点に手応えを感じている。勤務地など学生の要望を考慮してあげると、相思相愛に近い感じになる」と感じている。

 OfferBoxの学生の登録数は今年3月末で約2万9000人。「今年中に約4万人に達して昨年の倍になる見込み」(アイプラグの中野智哉社長)。民間企業に就職する大学生の約1割が利用するようになる計算だ。サイトを利用する企業は現在、約1450社。コクヨやロート製薬などの知名度が高い大手企業も利用している。

学生の属性と行動データを学習

 こうした大手企業の新卒採用活動は、短期間に大量に寄せられるエントリーシートの処理に大きな労力がかかる。企業が検索で学生を探すOfferBoxは、そうした労力は少ないものの、各人のアピール文などを読み込むには時間がかかる。アイプラグは、それを機械学習で解決しようとしている。

 同社は今年2月後半から、機械学習によって企業と学生の属性と行動データを学習している。行動データとは、企業がどんな属性の学生にオファーを送っているのか、一方でどんな学生がオファーを受けるのかといった情報だ。学生は就職したい企業が次々と変わっていくため、リアルタイムで継続的に学習している。

 機械学習を導入したアルゴリズムによって、企業の採用担当者へ、オファーを受ける可能性が高い学生約1000人を提示する。担当者はその中から条件を入れて絞り込み、オファーを送る学生を選べる。ちなみに、学生の属性は約20項目。そのうち一部自由記述の「過去のエピソード」の中に含まれる文章からも、学生の興味や人となりを判断できる。

 中野社長は、「自社を希望する可能性が高い学生の中から面接したい学生を抽出できるので、採用にかかる時間を短縮することになる。自社にとって最適な学生にオファーを送る精度が高い。そして、機械学習の導入でオファーの送信率が約3割改善した。つまり、8人の学生の情報を見て1人にオファーを送っていたのが、6人を見て1人に送るようになった」と、いち早く効果が出ていると言う。

OfferBoxでは機械学習を採用したアルゴリズムで、企業が会いたい学生と学生が会いたい企業のマッチングを目指す
OfferBoxでは機械学習を採用したアルゴリズムで、企業が会いたい学生と学生が会いたい企業のマッチングを目指す

 OfferBoxは学生の登録料、企業の利用料とも無料。学生が就職したら、採用企業が1人につき30万円をアイプラグに支払う成功報酬型の料金体系になっている。

 企業がオファーを送ることができる学生数は100人。ただし、面接の結果、学生が就職に至らない場合は学生もう1人にオファーを送ることができる。学生もオファーが来た企業のうちで面接に行くことができるのは最大15社と制限を設けている。

 中野社長はこう語る。

 「成功報酬型の人材紹介では、関東での相場が約90万円、関西で約75万円。いずれも人が選んで紹介しているのでコストがかかっている。当社の場合は、新卒採用サイトというプラットフォームを用意し、企業と学生に利用していただくことでビジネスが成り立っているので、コストを大幅に削減でき、成功報酬額の価格破壊を実現できた」

 こうした新卒採用だけでなく、中途採用の業務でも、人事ビッグデータと機械学習によるマッチングが進んでいる。職務経歴など判断に使えるデータが豊富なため、さらに高い精度を期待できる。

企業に求職者をレコメンド

 「こんな方はどうでしょうか?」と、中途採用を進める企業に求職者をレコメンドするサービスが、今年1月に始まっている。

 リクルートキャリアが提供する、求職者の匿名レジュメのデータベースを活用した、企業向けの求職者レコメンド&スカウトシステム「CAST」だ。同社が運営する「リクルートエージェント」サービスの一環として提供する。

 CASTは、これまでの利用企業の採用の書類通過者や面接通過者などに関するビッグデータから特徴を抽出し、採用に結びつきそうな匿名レジュメを企業へ推薦する。CAST利用について承諾を得た求職者を対象にしている。

求職者レコメンド&スカウトシステム「CAST」の画面イメージ
求職者レコメンド&スカウトシステム「CAST」の画面イメージ

 企業はレコメンドされた求職者に「面接確定」か「応募歓迎」「お見送り」の3つの選択肢から1つを選ぶ。面接確定をクリックすると、求職者に対してスカウトの文面が自動で送付される。

 「企業からスカウトが届きました!応募を検討してください!」というメールが求職者に届く。企業はスカウトの文面を作成する必要はない。なお、求職者を担当しているリクルートのキャリアアドバイザーにも同じスカウトの文面が送られるため、求職者が企業のオファーに対して何も反応していない場合は、「いかがでしょうか」とフォローする。

 リクルートキャリア中途事業本部カスタマーサービス統括部斡旋事業企画部斡旋開発グループの南雲亮マネジャーは、「CASTの活用による企業側のメリットは2つある。入社してほしい求職者に自らオファーを出せること。もう1つはマッチングの精度が上がることだ」と説明する。

 CASTでは、レコメンドに対する企業の判断を読み込んで、どんな求職者を選ぶ傾向にあるのかを学習する。ここに機械学習を活用している。CASTは企業の面接決定などの判断をはじめ、過去の書類通過者や面接通過者の職務経歴や求人サイトでの行動ログなど約2000項目と、求職者の同データを比較して、利用企業にレコメンドを送る。判断を繰り返すうちにレコメンドの精度は上がっていく。

 リクルートエージェントに登録している求職者の数は約34万人。現在、約2700社がCASTを利用している。人事ビッグデータと機械学習によって、採用活動が大きく効率化されることが期待される。

 若者の早期離職が注目される昨今、採用の次は社員の定着が課題になる。離職率の低下へビッグデータを活用しようという取り組みも増えている。

※特集(3)「離職リスク高い社員へ昇級を提案、ビッグデータで離職防止の指示型分析まで進む」へ続きます。

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