クルマから生まれるIoTデータの量と種類は拡大の一途。収益機会は自動車メーカー以外にも生まれ、異業種との“かけ算”が価値を高める。特集第3回は、さらに進んで同業同士のデータの“たし算”に取り込もうとする事例を取り上げる。

 どの道路を何時頃に走ると眠気を感じるのか?

 今年、こんなことを探る実証実験が進んでいる。運転者の眠気データとダンプトラックの走行データを掛け合わせることによって実証する。

 実験は、10トンダンプトラックやミキサー車など約500台を保有してレンタル、リース、販売などを手掛けているP&J(東京都武蔵野市)が中心になり、パナソニック子会社であるパナソニックソリューションテクノロジー(東京都港区)、コンサルティング事業やトレーニング事業などを手掛けているM-ITコンサルティング(東京都中央区)などが参加する。

運転者×トラックのデータ

 まず、今年初めに大塚製薬がP&Jに所属する運転者のうち20人にアンケートして生活習慣や持病を把握した。眠気と走行データとの相関だけでなく、生活習慣などと眠気の相関も解明していくためだ。事故が起きたり、運転者が急に休んだりすると、損害は半端な金額ではなく、数億円単位になるという。

 3月16日、17日には、試験的に2人のドライバーがミツフジ(京都府相楽郡)の着衣型生体センサー「hamon」を身に着けて、眠気、ストレス、心拍数を、ダンプトラックの走行データとともに測定した。着衣型生体センサーはスマートフォンとBluetoothでつながっており、生体センサーから得られる心電位と3軸加速度データなどから心拍変動・姿勢などの多次元特徴量を抽出し、眠気やストレス度などを判定している。眠気を検知した場合はスマホを通じて即時アラーム(音、振動)を送ることができる。一連のシステムは、パナソニックソリューションテクノロジーが開発を手掛けている。

 実験では運転者は朝5時、宮城県亘理郡を出発して約1時間で福島県南相馬の現場に到着。土砂を積んでは下ろす作業を繰り返した。夕方5時半には宮城県に戻ったのでトータル12時間以上になるが、作業そのものは移動が約20分、待ち時間が約15分というサイクルだったため、特に眠気などは表れなかったという。

 今年度前半には長時間運転のケースで実証実験をする。5人の運転者を対象に、着衣型生体センサーを通じて3月と同様のデータを取得する。パナソニックソリューションテクノロジーは実証実験を経て、「ドライバ眠気検知サービス」などを今年度中に提供開始する予定だ。

急ブレーキと心拍数の相関

 本実験に先立つ昨年夏、P&JとM-ITコンサルティングは伊豆諸島の三宅島で運転者の運転中の心拍データと体温、そしてダンプトラックの走行中のGPSデータと加速度データを取得。リアルタイムにモニタリングして相関を見た。5台のダンプトラックと5人の運転者を実験対象にして、オムロンの胸部貼り付けタイプのセンサーを使って運転者の心拍数を測定した。

運転者のデータとダンプトラックの走行データをリアルタイムでモニタリングして相関を見る
運転者のデータとダンプトラックの走行データをリアルタイムでモニタリングして相関を見る

 データを基に急ブレーキや急加速した場所を画面上に表示。その場所をクリックすると、その時の運転者の心拍数と体温が分かる。

 一連の実験は、運輸業界の課題をデジタル化、IoT対応で解決を目指す団体、運輸デジタルビジネス協議会の活動の中で実施されている。協議会事務局の鈴木久夫氏は、「急ブレーキを踏んだときには、運転者の心拍数は確実に上がった」と話す。運転者の状態と走行データの相関をより深く調べるために、福島での実証実験につながったという。

 昨年8月に設立された運輸デジタルビジネス協議会では、参加企業のデータ連係を推進している。運転者の眠気と走行データの相関を解明する実証実験の参加企業も会員になっている。

 幹事長を務めるのは、フジタクシーグループ(名古屋市)の梅村尚史代表取締役。同グループは約700台の営業車を抱え、名古屋地区では、最大手のつばめタクシーグループ、2番手の名鉄交通に続く3番手だ。

 自社の配車アプリを使って、時間帯別にタクシーの需要を予測している。梅村代表は「昨年から名古屋地区のタクシー会社で配車アプリを一本化しようと、大手タクシー会社経営トップと真剣に話し合っている」と明かす。

 配車アプリが共通になると、データの“足し算”になってデータ量がグンと増えるのでタクシーの需要予測精度が格段に良くなるからだ。本特集ではこれまで、異なる企業、種類のデータを“かけ算”する事例を紹介してきたが、同業種の同種のデータの足し算による連係事例はほぼない。

 同じ地域の競合同士のデータ連係が実現すれば、これまでのタクシー業界の常識を打ち破る大きな変革につながるかもしれない。

 「1本化しなければ生き残れない。自動運転時代は、タクシーすら要らなくなるかもしれない。だから業界を挙げてタクシーなら安心安全で利便性が高いと思ってもらえるように努力しなければならない」と、梅村代表は強調する。

独自動車メーカー3社からデータ

 一方、海外では競合同士がデータを出し合う動きが出始めている。独メルセデス・ベンツ、独BMW、独アウディの独3社連合がフィンランドのノキアから共同買収したオランダのHERE(ヒア)は今年前半にも、独3社からデータを取得して欧米で4つのサービスを提供する。

 (1)リアルタイムトラフィック(渋滞情報などの提供)、(2)道路標識(時間帯別制限速度や通行止めなどの情報提供)、(3)路上駐車(満空情報などの提供)、(4)ハザードの警告(急ブレーキが多い危険な場所や雨が降り出して滑りやすいなどの情報提供)の4つだ。

 このサービスを実現するために、独3社が販売した多数のクルマ(台数は非公表)が収集するデータを取得している。1社でなく3社を足し算したデータなので、より大きなビッグデータになり、情報の精度は上がる。

 取得データは、11カテゴリーのセンサーから得られたデータだ。具体的には、ハザードライト、GPS(全地球測位システム)、ビデオカメラ、ウインドシールドワイパー、点火装置、ブレーキ圧力、ヘッドライト、フォグライト(霧の発生時に点灯)、ABS(アンチロック・ブレーキング・システム)、ウルトラソニックパーキングセンサー、エレクトロニック・スタビリティ・コントロール(横滑り防止装置)だ。

オランダのHEREが取得するクルマのデータ
オランダのHEREが取得するクルマのデータ

すべての業界に提供

 ヒアが提供するサービスは、メルセデス、アウディ、BMWの独3社の顧客だけでなく、OEMや代理店などすべての企業が顧客となりサービスのライセンスを取得できる点が大きなポイントだ。ヒアは独3社以外の自動車メーカーからもデータを取得すべく交渉に当たっているもよう。

 安全・安心という協調領域では、競合同士が中立的な機関にデータを提供し、あらゆる顧客にとって有益なサービスを生み出す考え方は極めて重要だ。ヒアはそうした中立的な機関を目指している。様々な業界に商機を生み出す、まさにモビリティビッグデータの未来を象徴する動きと言えるだろう。

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