企業や団体に関する複数のデータを掛け合わせることで、企業の本当の姿を浮き彫りにする新サービスの開発が相次ぐ。オープンデータなどを収集し、独自のロジックで掛け合わせるなど高い付加価値を創出している。
外資系投資銀行出身のメンバーが立ち上げた企業情報サービスベンチャーのゼブラル(東京都中央区)は、登記簿や企業に関する処分、メディアでの報道などのデータを集約し、一つのデータだけでは見えない企業間のつながりを可視化するサービスを開発した。
行政処分逃れの法人設立を監視
行政処分などを受けた法人の経営者や役員が、社名を変えて他の法人を立ち上げていることをネットワーク図で可視化できるのが特徴だ。ゼブラルの小畑実昭代表取締役社長は「これらの情報を人手で集めると、データを用意して整形するだけでも大変な作業となる。さらにそれをモニタリングし続けるとなると、多大な時間とコストがかかる」と説明する。
例えば、下の画面はあるトラブルを起こした企業の関係者が、同じような顔ぶれで他の企業を設立してビジネスを行っていることが一目で分かる。もちろん現在もトラブルを起こしているとは限らないが、リスクを回避する一つの判断材料となる。

このサービスはゼブラルが「プランズインサイト」として昨年から提供しており、現時点で金融機関や弁護士事務所、メーカーや広告会社など10社以上の利用があるという。主たる用途は新たな取引先の評価や審査の判断材料である。「顧客からは『公知のデータソースをベースとしているので説得力があり、社内で情報を共有しやすい』などと評価されている」(ゼブラルの萩野谷尚志 取締役副社長)という。
ゼブラルは公開されている大量の金融情報のデータを集計し、時系列で可視化したり、横串で分析したりできるサービスを提供している。金融庁の有価証券報告書などの電子開示システムである「EDINET」や東京証券取引所の適時開示システムである「TDnet」などで使われる、XBRLと呼ぶ国際的な標準フォーマットを活用したデータの集約・分析に強みを持っている。
150万社から新規の見込み客
企業調査会社の東京商工リサーチ(TSR)は、国内約150万社の企業調査情報から、顧客の新規の取引先を提案するサービスを開始した。「これまでの有力顧客の特徴から、これまで想定していなかった新規に取引をする可能性がある企業を見いだす」(東京商工リサーチ事業本部マーケティング部の弓削正範部長)。
見込み企業分析の流れは以下の通りである。まず、自社の業種と売上高を、「リース業」で「100億円以上」のように、業種は1269の細分類、売り上げ規模は4種のカテゴリーから選択する。
そこで自社に似た企業の取引先群が特定されるので、それらを「売上高」や「利益」「リスクスコア(倒産確率)」など25の項目で分析し、傾向を把握する。
次にそこで分かったプロファイリングのデータをTSRの150万社に適用してターゲットリストを作成する。必要に応じて都道府県など販売地域を選択したうえでスコアリングする。
このサービスは「アカウント・ベースド・プロファイリング」として今年2月に提供開始、既にIT企業など複数社が契約したという。

サービス料金は2段階になっている。企業の絞り込み分析までが3万円である。「ここでは特定の企業名は提示されないが、新規企業の特徴についての約40ページのレポートを提供する」(TSRの弓削部長)。そしてその上位からX社という形で、TSRから企業情報を購入する。企業情報は詳しさにより価格が異なるが、1社当たり90円のサービスの購入が最も多くなると見込まれる。仮に1000件を購入すれば9万円となる。
TSRはアカウント・ベースド・プロファイリングを提供するにあたり、企業情報プロファイリングという従来のサービスの分析ロジックを活用している。企業情報プロファイリングは顧客に対して優良企業200社の情報を提供してもらい、それを基に似た新規顧客先を分析、特定していた。
地域の企業群を決算書で分析
新潟県最大手の地方銀行である第四銀行は、保有する企業決算情報のデータを分析し、エリア内の自治体や企業に対してコンサルティングすることを検討している。地銀に対しては、国の地方創生の政策推進によって、地元企業の育成や支援が求められており、効果的な支援へビッグデータの活用に乗り出した格好だ。
現時点で分析システムはプロトタイプだが、県内に本社だけでなく事業所を置く企業を、域内調達や売上高などの2軸で分析し、偏差値化して評価している。
具体的には2軸とも高く地域への影響力が高い「直接・間接型」、売り上げや雇用で強みのある「直接型」、域内での調達率が高い「間接型」、それぞれの「予備軍」の4パターンに分類している(下図)。

第四銀行営業本部兼地方創生推進本部コンサルティング推進部の石塚純地方創生推進担当部長は「各企業の特徴を取り引きや財務状況などでカテゴライズすることで、人材や融資、コンサルティングのどの支援をすることでより第1象限に近づくのか、自治体であればどのような企業を誘致・育成すれば、第1象限に上がる企業が増えるのかといった判断がしやすくなることを目指している」と説明する。
県内企業は約2万社だが、現時点では約2分の1の分析を完了したところだ。実施した自治体は14市である。
銀行は非上場企業の決算書という重要データを保有しているが、「それぞれの企業がどの企業とどのように取引しているのかについて追加の情報が必要となる。現在は支店の各担当者が追加で調査するなどしている」(第四銀行コンサルティング推進部の佐々木勉上席調査役)。支店の担当者にとっては追加業務となり、その軽減や効率的な把握が課題である。
国のサービスは自治体限定
こうした地域の企業のポジショニングの分析は国が2015年4月に提供を開始した、ビッグデータの可視化システム「RESAS(地域経済分析システム)」でも利用できる。地域内での取引が多いのを「ハブ企業」、地域外との取引が多いのを「コネクター企業」と呼び、それらの特徴を持った企業に着目して地域の振興策を検討することに使われている。
ただし、企業データの提供元である帝国データバンクとの契約などにより、RESASの同メニューを利用する権限は国や自治体の特定のユーザーに限定されている。地銀や学術機関も含め閲覧できない。
地域をRESAS+決算書で把握
こうしたなか、北海道最大の地銀である北洋銀行は、地域の特定の産業の動向をRESASを活用して把握するフレームワークを、北海道経済産業局と開発し、「地域中核産業分析モデル」として2月に発表した。
経済産業省北海道経済産業局総務企画部企画調査課の佐々木信之課長補佐は「産業をターゲティングするマクロ分析はRESAS、ミクロ分析は銀行データを活用することで、地域産業の現状と課題を把握し、施策の参考にしてほしい」と狙いを語る。
まずRESASの一般メニューで、地域内の付加価値額や雇用への直近の貢献度が高い産業を「地域中核産業」として特定する。そして地域中核産業の付加価値額、従業者数、労働生産性などの重要指標について、経年変化を見たり、全国と北海道で比較したりする。
第2ステップとして、北洋銀行の持つ企業の決算書などの財務データを活用する。地域中核産業について、そのエリアで平均的な10~15社を手作業で抽出し、「資産」「負債」「収益性」「キャッシュフロー」などの重要指標の推移を分析する。北洋銀行の地域産業支援部栗山潤一調査役は「厳密にするのであればシステム化が必要だろうが、現時点では手作業で集計している。まずは地域の産業のなかでの自社のポジショニングを把握してもらいたい。自治体にも地域やエリアの産業施策を立てるのに参考にしてほしい」と説明する。
旭川の経済圏での家具製造業を取り上げた分析例では、15社の財務データの平均値を分析。全国の同業種と比べて、設備投資の遅れや、売れ残りの在庫が多く借入金負担が大きい、ことが確認できたという。特に設備投資は減価償却費の範囲内に収めており、慎重な経営姿勢が浮き彫りとなった。
第3ステップでは、そうした情報を施策に生かす。取引先の紹介、融資の検討、事業コンサルティングなどを必要に応じて実施する。旭川の家具製造業の例では、融資の支援とともに、魅力的な商品の開発、マーケティングを実施することが考えられるという。
3月上旬には信用金庫や信用組合など道内の金融機関にも利用を呼び掛けた。競合だが、道内企業は信金や信組のみと取引する場合もあるためだ。信金や信組にも地域中核産業分析モデルを活用してもらい、経済活性化を目指す。
