ビッグデータ、人工知能(AI)、IoT(Internet of Things)を活用した新サービスの創造へ、大手企業が本腰を入れている。今春は部署ごとのデジタル変革への取り組みを全社、グループで連携させるための組織の新設が相次いでいる。
三菱ケミカルホールディングス(HD)は4月1日付で、CDO(最高デジタル責任者)を新たに設置した。日本IBMのソフトウェア開発研究所長などを歴任した岩野和生氏がCDO兼執行役員に就任した。三菱ケミカルHDのように素材メーカーがCDOを設置するのは珍しいが、三菱UFJフィナンシャル・グループや三菱商事など三菱グループはCDOなどの設置に積極的だ。
今春はヤフーも「最高データ責任者」としてのCDOを新設している。
三菱ケミカルHDは三菱化学、田辺三菱製薬、三菱樹脂、三菱レイヨンなど素材や化学の事業会社で構成されている。岩野氏は「多くの事業と人材があり、現場にはものすごい量と種類のデータがある。変革への意志もあり、CDOとして破壊的な社会の変化にも対応できるようにしたい」と意気込む。
三菱ケミカルHDはSWATチーム
岩野氏は4月以降、「SWATチーム」と呼ぶ十数人のチームを立ち上げる。「データサイエンティストや戦略立案、特定分野の専門家などを外部採用も含めて組織する。半分はデータサイエンティストにしたい」(岩野氏)との考えだ。ゆくゆくは数十人規模にし「社内の人材はチームに来て1~2年後にビジネスユニットに戻ってもらい連携を強化していきたい」(同)。そのために必要なグループの人事制度も整備していく。
岩野氏は1月に入社し、約2カ月間現場を中心に回ってきた。「それぞれの現場には共通の部分があるので、データサイエンティストとともに情報のテキストマイニングなどでメソッドを整備していきたい。生産であれば、現場の素材、プロセス、パラメーターをデータで把握することでデジタルの力を活用していけるのではないか」(岩野氏)。
なお、岩野氏は、同じく4月1日付で、CIO(最高イノベーション責任者)兼執行役常務に就任するラリー・マイクスナー氏の配下に就く。マイクスナー氏はシャープの米国開発法人の社長の経験もあり、CTO(最高技術責任者)を兼務する。
丸紅はCSO直下に戦略室
丸紅は4月1日、IoT・ビッグデータ戦略室を新設した。丸紅のような総合商社はエネルギー、素材などから生活関連まで幅広い産業に関わり、あらゆる局面でデジタルトランスフォーメーションの大波に直面している。同室は変革に対応するため、全社の「デジタル戦略立案」と「インキュベーション」の役割を担う。
丸紅はこれまでも営業部、グループ会社ごとでビッグデータ活用に取り組んできた。例えば、丸紅新電力は日本気象協会と電力需要予測システムの実証試験を実施している。気象予測と直近の電力需要実績を解析し、電力需要を予測する。
IoT・ビッグデータ戦略室ではこうした各営業部で培った知見を全社に横展開する役割を担う。全社の戦略立案では営業部固有の活用ではなく、サプライチェーンマネジメント(SCM)のような様々な営業部に共通する重要な活用テーマを探り、新たな付加価値の創造を目指す。
後者では、営業部から出てきたビッグデータ活用提案の中で、本当にリソースを割くべきか判断できないような提案を引き受けて、実現の可能性を見極めていく。
戦略室は、山添茂代表取締役副社長執行役員が担当するCSO(最高戦略責任者)直下の組織となる。人員は営業部から異動してきたメンバーを中心に、法律、知財関係の専門家も含む兼務・専任の12人でスタート。「近いうちにエンジニア系の人材も2人程度を確保し、システムの設計図ぐらいは社内で作り、実証実験を素早く回せる体制にしたい」と経営企画部長(兼)IoT・ビッグデータ戦略室長の古谷孝之氏は考えている。
実は戦略室を設立するまでは、約半年間の“助走期間”があった。同社は昨秋に様々な営業部から若手も含めた50人以上を集め、デジタル活用策を検討する委員会を設けた。
委員会の活動を通じて、「営業部のビジネスや、間接部門の生産性向上など(ビッグデータを活用する)相当数の事案が上がってきた」(古谷室長)。そうした提案の可能性を見極めてインキュベーション段階に進めたり、多数の提案の中から全社共通で取り組むべきテーマを見出したりしていく。4月にはデジタル活用の全社戦略を示し、早期に実証実験にも取り組み結果を出していきたい考え。
全社推進の組織では、大京や西日本フィナンシャルホールディングスなども専門組織を新設している。
ホンダは新研究センター「X」
本田技研工業(ホンダ)は、研究開発子会社である本田技術研究所(埼玉県和光市)に4月1日、「R&DセンターX(エックス)」を新設した。ロボット技術やモビリティシステム、エネルギーマネジメントといった新しい価値領域を担う研究開発に取り組むことになる。
同センターでは、従来の「モノづくり」に加え、人と協調する新たな価値を持つ「モノ・コトづくり」に取り組む。例えばロボティクスの基盤技術として、「人と協調する人工知能技術」の研究を進める。
また、オープンイノベーションによって、外部との戦略的な連携を図る。AI研究開発拠点のHondaイノベーションラボTokyoが窓口となる。同ラボでは、自動運転やコネクティビティといった、既存領域も含めた研究開発を担当している。
