日本取引所グループと子会社の東京証券取引所は、売買審査業務における初期段階の調査にNECおよび日立製作所の人工知能(AI)を適用。AIの有効性を検証した結果、2つとも高い精度で不公正取引の可能性を判断できることが実証された。2017年度中に実際の売買審査業務にAIを適用する計画だ。
AIには、売買システム「arrowhead」で処理した2015年9月から約1年間の取引の全データを学習させた。不公正取引だった注文の数量や時刻、前後の注文データなどを正解データとして与えた。検証では2016年10月以降の取引データを使用。現行の審査システムによって「不公正取引の可能性あり」とされた取引のうち約6割について、2つのAIとも不公正の可能性は低いことを判断できたという。
審査担当者は、AIが怪しいと高めのスコアを付けている残り約4割の取引だけをチェックすればいいので、「検証段階では、審査担当者の負荷が軽減されるという手応えがあった」と日本取引所グループの日本取引所自主規制法人の売買審査部総務・企画・取引相談グループ鈴木徹・統括課長は説明する。
現在の売買審査業務では、1日当たり数千万件の全取引に対して、審査システムが不公正取引の可能性があると判断した取引を幅広く抽出。これら取引の中身を審査担当者が1件1件見て、売買状況を分析している。
この初期段階の調査(初動調査)で不公正取引の可能性を判断。次の段階で詳細な本格調査を実施している。今回の実証でAIを適用したのは初動調査だ。

どちらかのAIに絞り込む可能性も
NECのAIは「RAPID機械学習」。ディープラーニング(深層学習)技術を独自に改良して高速化したアルゴリズムだ。日立のAIは「Hitachi AI Technology/H」。「事業に関連する大量かつ複雑なデータの中から、売り上げやメンテナンスコスト、生産効率など組織のKPIとの相関性が強い要素と、その改善施策の仮説を効率的に導き出すAI」(同社サイトより)という。
日本取引所グループでは2015年8月、東京証券取引所IT開発部の主導でAI適用に関する研究会を作った。研究会の目的はAIにかかわる技術的な理解を深めるとともに、具体的な適用業務を想定し、その可能性を研究することだった。一方、売買審査においても最近の取引データ量の増加や複雑化する取引形態に適切に対応していくため、より効率的かつ精緻な審査手法を模索しており、そのニーズがAIの活用とマッチしたことから、2016年4月から検証を開始した。
研究会を作った当時は、NECや日立のほかに、日本IBMやNTTデータ、富士通などのIT企業が参加していた。各社が持つ技術の紹介を受けながら、現在の技術レベル、適用例などについて意見交換をした。
その後、売買審査業務に対する実証実験を行うに当たっては、「NECと日立のAIは大量かつ複雑な数値データの処理に向いているのではないかと判断した」と東証IT開発部情報システム担当の藤本圭課長は話す。
将来的には、2社のAIの精度を上げていく。審査担当者が調査する取引を、現在の約4割からさらに減らしていくことを目指す。今は2社のAIを併用する方式で検討を進めているが、場合によっては1社のAIに絞り込む可能性もあるという。現行の審査システムが除外した取引をAIが不公正取引の可能性が高いと判断し、それが審査段階まで進んだ場合には、当該内容をフィードバックして現行の審査システムの精度も上げていく。