健康ビッグデータの分野でもAIの活用が注目されている。最も期待されているのが、アプリなどを継続的に使ってもらう仕掛けの実現である。ユーザーの嗜好にあった健康アドバイスやトレーニングメニューの提案、食事メニューの提案を行ったり、チャットボットの機能でユーザーからの質問に答えたりする。つまりユーザーに寄り添うことで継続率を高めるのだ。
健康支援アプリを手掛けるFiNC(東京都千代田区)もそうした機能にAIを活用する1社だ。昨年8月、AIの高度化に向けてAI研究所の「FiNC Wellness AI Lab」を東京大学大学院の松尾豊特任准教授とともに設立し、約5人がAI機能の拡充に取り組んでいる。

AIを活用することで、より多くのユーザーに個別に対処することを目指している。FiNCの小泉泰郎代表取締役副社長CFO兼CSOは「これまではお金と時間のある人が個人でアドバイスを受けることができたが、時間と場所の制約なくすべての人にパーソナルコーチを提供したい」と説明する。
ログ、悩み、目標でクラスター化
FiNCには、歩数、体重などのライフログのほか、有料の血液検査や遺伝子検査の結果、累計50万食に上るダイエットを目指す人の食事の写真と専門家からの助言などのデータがある。法人向けのサービスでは、健康診断の結果データも連係している。
こうしたライフログの情報に加えて、個別の悩み、持っている目標などでクラスタリングを行っている。クラスター数は非公表だが、相当な数に分類し、トレーニングなどのアドバイスやお薦めの食事メニューなどのコンテンツを出し分けている。
「ユーザーに成果を出していただくため、いかに継続的に使ってもらうのか、行動を変えてもらうのかの工夫をしている。個別のコンテンツのほか、毎日見るであろう天気などの情報を提供している」(南野充則取締役CTO)。こうした施策によって、25%のユーザーが毎日利用しているという。
このほかカロリー管理のために食事をカメラで撮影する際にもAI機能を活用、どのような食事をしているのかを判別する。手入力による煩雑さを解消し、継続的に使ってもらうための取り組みと言える。「今後は『気分はどう?』と聞いてカメラで表情を撮影して分析することも検討している」(小泉副社長)。
全世界で4500万DLのAIアプリ

AI活用の健康アプリでは米ニューヨークが本社のヌームが先行している。アプリは全世界で4500万件、日本では100万件のダウンロードがあるという。日本では2013年から事業を展開している。
ヌームは2008年に事業を開始して2年後にAIを搭載した。ヌームジャパンの濱嵜有理代表は「性別や食事内容、季節などからユーザーの体調を推定する機能などに強みがある」と説明する。
ヌームのアプリは基本メニューは無料で利用できるが、「カラダ改善プログラム」と呼ぶ月6000円の有料メニューも用意する。「生活習慣は4カ月続ければ変えることができる。そのためにAIはもちろん実際の管理栄養士によるアドバイスも提供している」(濱嵜代表)。
企業の健保組合が健康診断結果を基に改善が必要な従業員に絞って、ヌームの有料サービスを提供するケースもあるという。