農林中央金庫は今年夏前にも、支店から本部への融資業務に関する問い合わせに対し、人工知能(AI)による実運用を開始する。多様な質問表現に対応でき、1~3人で対応していた業務が自動化される。
ディープラーニング(深層学習)を用いて自然文を解析する自動応答システム。人によって異なる多様な質問表現に対して最適な回答を瞬時に返すことができるという。
AIスタートアップ企業Studio Ousia(スタジオ・ウーシア、東京都千代田区)の自動質問応答システム「QAエンジン」を導入して支店からの電話やメールなどによる問い合わせに対して自動で応答するようにする。
例えば、「稟議書を別の部署へ回覧できるか」という問い合わせと、「他部へ回付(かいふ)を行いたいがどうすれば良いか」という問い合わせが同じ主旨の質問であること認識し、「回付可能範囲と手続き」について用意された回答を返すことができる。QAエンジンを活用した自動質問応答システムは学習によって「回付=稟議書を回すこと」と認識できているのだ。
1~3人の業務を自動化
電通国際情報サービス(ISID、東京都港区)、Studio Ousia、農林中金の3社は昨年秋から冬にかけて、QAエンジンを用いて、融資業務に関する社内問い合わせに対する自動質問応答システムの実証実験を行った。その結果から「実際の業務に使えるとの手応えを得た」(農林中金コーポレート本部デジタルイノベーション推進部長の荻野浩輝執行役員)。ISIDが同システムの画面を開発する予定。実運用ではIDとパスワードで管理できるようになる。自動質問応答システムは、アマゾン・ウェブ・サービスのクラウドサービスAWS(Amazon Web Services)上で稼働する仕組み。
荻野執行役員は「これまでは多いときで3人、現在は1人で1日1時間前後、電話やメールなどで対応してきた業務を自動化できるようになる。また、内部の問い合わせに対し、様々なAIを活用することによって業務の効率化を進めたい」と話す。
問い合わせ件数は極めて多い。JAバンクのオンラインシステムや事務手続きに関する内部の問い合わせは年間数十万件に達する。ちなみに全国の農業協同組合(JA)の組織数は655、同店舗数は7805に及ぶ(2017年3月末時点)。
約1400の教師データを学習
今回の開発に際しては、QAエンジンに質問文と回答文をセットにした教師データ約1400を学習させた。システムへの学習時間は2~3時間。
教師データは農林中金の支店から本部への融資業務に関する問い合わせ履歴データを基に作成した。農林中金が用意しているFAQ(よくある質問)の回答数は300弱だが、質問については様々な言い回しを考慮した結果、回答数の約5倍である約1400になった。
例えば、「祝日はシステムを利用できるか」という質問を送ると、「日本の祝日であっても、月曜8:00~土曜12:00であれば、利用可能です。ユーザー操作マニュアル『Vシステムガイド』をご参照ください」という回答が瞬時に返ってくる。その際、質問に対する最適な回答が、スコア付きで高いものから順番に送られてくる(下の図)。
他にQAエンジンを活用する予定の企業として、セブン銀行がある。同行は個人利用客向けチャットボットを2018年春にリリースする予定だ。