中堅自動車部品会社の旭鉄工(愛知県碧南市)は、汎用のセンサーを活用した自作のIoTシステムを導入した。部品1個の生産時間を把握することなどで改善に乗りだし、3億円以上の効果を出したノウハウを横展開する。

 名古屋市から南に車で約1時間の愛知県碧南市。昨年9月、製造IoT(Internet of Things)の導入を支援する従業員5人の企業が設立された。社名はi Smart Technologies(ISTC)である。

IoT子会社「i Smart Technologies」の本社
IoT子会社「i Smart Technologies」の本社

 既に東北の部品製造業、兵庫の織物業、新潟の金型業、愛知の金属加工業2社などが正式に導入。愛知の瓦業や塗装業、群馬の機械加工業などもシステムを導入し試行している。このほか、カンボジアなど海外を含む約5社からも引き合いがある。売り上げは、2017年8月期に年間2500万円を見込み、19年8月期には年間1億円を超えたい考えだ。

1ライン月額9800円で稼働把握

 サービス料金は1ライン当たり月額9800円と安価かつシンプル(このほか一般に10ライン以上カバー可能な通信機の利用料金が月額9800円、初期設定費用が最低で9万2000円かかる)。製造装置などに装着するIoTセンサーの費用は無料である。東京・秋葉原などで購入した1個50~250円のセンサーを情報が取れる場所に貼り付けるなどでデータを取得するが、「昭和に製造された古い機械にもたいていの場合取り付けられる」(ISTCの黒川龍二執行役員 COO)。

スマートフォンで工程の状況チェックする木村社長
スマートフォンで工程の状況チェックする木村社長

 工場内の各センサーの情報は無線LANで集約し、クラウドサービスに送信。それらの稼働状況や1部品の生産時間などの情報は、スマートフォンなどのブラウザーでどこからでも閲覧できる。それを見ながらどこを改善すべきかを判断するのだ。

 ISTCの母体は売上高約150億円、従業員数480人の自動車部品会社の旭鉄工である。エンジン部品やボディ部品、ブレーキ部品、トランスミッション部品、サスペンション部品などを生産している。トヨタ自動車とそのグループ向けのビジネスが9割以上で、旭鉄工の木村哲也代表取締役社長がISTCの代表取締役社長も兼ねている。

旭鉄工の工場内
旭鉄工の工場内

 実は木村社長はトヨタ出身。トヨタ生産方式を推進・指導する生産調査室に所属した経験がある。トヨタや他社工場での改善に取り組んできた。こうしたノウハウを、中堅中小向けのIoTに注いだのだ。

 まず2014年、旭鉄工がベースとなるIoTシステムの導入を開始した。当時、トヨタから同社に部品の増産要求があった。従来であれば装置を購入してラインを増設していたが、「木村社長から『流行しているIoTでなんとか対応を考えられないか』との指令が下った」(黒川執行役員)。

昭和の機械にセンサーを設置

 木村社長は「装置が稼働しているかどうか、1サイクルにどの程度の時間がかかっているのか。使うデータだけ確実に取れればいい」との方針を示した。しかし旭鉄工にIoTのノウハウはない。「外部のベンダーに頼むとIoTは大掛かりなものになってしまい、コストが見合わない」(黒川執行役員)。苦渋の策として、自作のIoTに取り組むことになった。

 もっとも昭和時代の機械はデータはおろか信号すら出ないものもある。試行錯誤の結果、解決策が見えた。例えば、緑・黄・赤で稼働状況を示す表示灯のある機械であれば、光センサーを灯の周りにくくりつけた。「当初は表示灯の信号線をバイパスしようと考えたが、点灯状態が分かればいい」(黒川執行役員)。

 これら監視対象の装置の稼働状況を、工場内に置いた汎用ディスプレーと無線LANを組み合わせた「iスマートあんどん」で一覧できるようにした。遠隔地からはスマートフォンで見られるので、出張先から木村社長がコメントすることもある。

部品1個の製造時間を把握

 改善に大きく役立ったのが部品1個を作るのにかかる「サイクル時間」の把握である。例えば、装置の可動部に磁力センサーを装着。オン・オフ間隔を部品1つ生産する時間として記録し分析することにした。

 その結果、コンマ1秒単位で部品1個の生産時間を把握できるようになった。従来は、「生産管理板」と呼ぶボードに作業員が手で書き込んでいたが、「数秒で1個の部品ができるラインを10ライン見ている担当者もおり、数値を読み取って正確に記すのは至難の業」(黒川執行役員)だった。

 こうして約1年間で、製造ラインのどこを改善すればいいのかが次々に見えてきた。例えば、「加工機の扉が開く範囲を45㎝まで30㎝狭くする」「次の部品を手前でスタンバイさせる」「生産ロボットの部品の運びを直線的にする」「生産装置のグリス塗りの整備を徹底する」といったことである。数値の傾向に異変があれば、故障の可能性があるとして早めの保守を行うなどした。改善の結果も数字ですぐに検証できる。

3億円以上の投資を圧縮

 こうしてバルブガイドと呼ぶ部品の切削工程では1個できる時間を3.7秒まで0.5秒短縮。停止時間も削減することで、2ラインの増設を不要とした。また、牽引フックの切削工程でも同様に2ラインの増設が不要となった。合計で2億円弱の投資が不要となり、4ラインの400平方メートル以上のスペースを節約できた。このほかのラインでも1億3000万円の設備投資を圧縮しており、合計で3億円以上の効果を創出した。

 従業員の残業も年間約2万時間を削減した。会社側の労務費などの負担を1人1時間当たり平均5000円とすると、約1億円の効果と見ることができる。

 導入当初はセンサーから判明した細かいデータを突きつけられ、現場によっては抵抗する場面もあった。しかし目に見えて効果が出てくると「現場からもっとこう改善すべきという意見が出てくるようになった」(木村社長)と言う。

 こうして成果が見えたのでISTCの設立に踏み切ったのだ。木村社長は「IoT提供を別会社とすることで、成果に応じた高い給料を支払いたい」と明かす。旭鉄工の改善が進めば工場担当者の役割も変わる。「今後、コンサルティングをメニュー化し、工場担当者を顧客企業の現場にも行かせたい」(木村社長)。

旭鉄工のIoT化によるメリット
旭鉄工のIoT化によるメリット

 2016年にはIT企業の米レッドハットの日本法人の「ルールエンジン」と呼ぶ仕組みも導入した。工場内で一度に多数のイベントが発生しても、設定した条件に基づいて確実に警告を出すことができるようになった。条件設定の管理も容易になった。中堅・中小だけでなく、より大規模な工場にも対応できるようになったと言える。

この記事をいいね!する