九州を地盤とするディスカウントストアなどを運営するトライアルカンパニー(福岡県福岡市)は2月14日、人工知能(AI)やマーケティング用のカメラをフルに活用した次世代型の店舗を同市内にオープンした。最終的に約700台のカメラを利用して、顧客の消費行動を把握し、棚や商品陳列、メーカーなど取引先との商品開発などに生かしていく考えだ。
福岡市東区に「スーパーセンタートライアル アイランドシティ店」をオープンした。スーパーマーケットとドラッグストアの機能を兼ね備えた都市型の業態で、今回、24時間営業の新店舗にITとAIの最新技術を採用した。

トライアルホールディングスの西川晋二取締役副会長は「リテールAIで日本の流通・小売業、マーケティングのあり方を変えていきたい」と意欲を見せる。
注目すべき仕掛けが「スマートカメラ」である。店舗内に2種類のカメラを合計で約650台設置した。多くが天井に吊り下げられており、陳列棚などにも配置した。600台は主として商品の陳列棚を認識し、残りの50台は人を認識する役割を担う。最終的に後者は100台を導入し、全体で約700台となる。

前者はスマートフォンをベースに、トライアルが独自に開発したものだ。認識した画像を基にして、商品棚の陳列状況や、来店客の商品への接触度などを分析する。AIの処理はオープンソフトウエアを利用して実現している。
購買行動として、商品を手に取っても購入に迷いが生じて商品を棚に戻すことがある。こうした行動を把握するために、撮影した画像から人を削除し、棚に戻した商品の位置や向きのズレをヒートマップで表示させることができるようにした。購入した場合は、棚の画像から商品がなくなる。

人の動きを把握しようとすると1秒間に5~6枚の画像が必要だが、棚の変化を見るためなら1分間に1枚の画像を撮影するだけで済むという。管理者画面では、10分から30分間隔でのヒートマップを表示すれば棚の変化を十分認識できる。
棚の前を大勢の人が通っていても、動いた商品が少ないケースや、その逆のケースなど、商品ごとのパッケージのデザイン、表面が来店客側を向いているかどうか、山積みに陳列した場合の商品の向きなど、購買行動に対する陳列の仕方の影響度合いを分析可能だ。
例えば、事前の実験では、ビールの棚の場合、通った人は多くはなくても確実に買うという傾向を確認できたという。「様々な仮説に対して顧客の実際の行動がどうなるのかについて、今後、A/Bテストを実施していく計画である」(トライアルホールディングスの執行役員で経営戦略部 グループCTOを務める松下伸行氏)。
もう1種類のカメラは、通過した人数、性別や年代などを推定するものだ。パナソニック製であり、同社とともに画像活用のプラットフォームについても検討している。

特徴は、カメラ単体で処理機能を持ったエッジ型のデバイスであるという点だ。来店客のプライバシーを配慮して撮影した映像から特徴だけを抽出し、映像そのもののデータは削除する。映像から性別と年齢(何歳代か)を抽出するが、映像はカメラには残さない。バックヤードに画像認識用のパソコンは不要だ。
デザインにも配慮がある。威圧感を排除するためポップなデザインを採用している。性別・年齢の認識率については公表していないが、これまでの検証で性別や年齢別の誤認率を把握できており、補正しているという。
カメラで収集する情報は、店舗入口での来店総人数、各売場への到達具合・滞留時間、来店客の店内の流れなどだ。
従来型の店舗では、購買したことをPOS情報で把握できるが、店内での購買行動を把握するのは難しかった。会員カードを持っていない人や、家族や友人と来店した際に購入しなかった人の行動も把握できる。
アイランドシティ店では、トライアルが従来から試行を重ねてきたIoTカートの最新版も「スマートレジカート」として投入した。店内で買物しながら自ら商品のバーコードをスキャンして登録。カートの大型ディスプレーに、顧客のプロフィルや購入商品を参考にしたレコメンドを行う。

スマートレジカートはITベンチャーのRemmo(東京都千代田区)と開発した。トライアルとRemmoは、画面に表示するレコメンドによる広告収入も見込む。
トライアルなど各社は、アイランドシティの仕組みをベースにオープンイノベーションをさらに加速させていく方針だ。