日経ビッグデータは2月12日、御茶ノ水ソラシティ(東京都千代田区)において、本誌読者限定の無料セミナー「データAPIエコノミー ~社内外のデータを生かすパラダイムシフトが始まる~」を開催した。API(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)を公開して積極的に活用している先進企業や支援企業が登壇。日本でも本格的に広がろうとしているAPIエコノミーの取り組みを披露した。

 所有するビッグデータを「情報資産」として外部に公開し、社外データと掛け合わせることで新たな価値を生み出す。APIを活用してビジネスを興す「APIエコノミー」の機運が高まっている。登壇した4社とも強調したのが、APIを活用する企業もメリットを享受する「エコシステム」を作り上げることの重要性だ。

 リクルートホールディングスでRecruit Media Technology Lab Mashup Awards事務局長を務める伴野智樹氏は、「APIにより、第三者が提供側のサービスを活用できるようになった」とメリットを指摘する。

60社、200のAPIでコンテストを展開

 リクルートは2006年から国内最大級の開発コンテスト「Mashup Awards」を実施している。様々なAPIを混ぜ合わせ(Mash)ながら開発したアプリやサービスの技術やデザイン、アイデアを競い合う。主として国内の約60社が提供する200程度のAPIが提供されている。2015年は72団体、431作品の応募があった。

リクルートホールディングスの伴野氏
リクルートホールディングスの伴野氏

 近年は人工知能やロボット研究に触発され、「音声合成やテキスト(文脈)解析などを開発できるAPIがよく使われる」(伴野氏)と言う。2015年のコンテストで多く利用されたAPIは、クラウドサービスとのデータ連係の「Microsoft Azure」(27作品)、メッセージ送信の「Twilio for KDDI Web Communications」(26作品)、認証やファイル管理など汎用機能の「ニフティクラウドmobile backend」(22作品)、メール配信の「SendGrid」(21作品)だった。

 伴野氏は、APIエコノミーのビジネスモデルは、フリーミアムと呼ばれる「無償提供」、利用時に料金が発生する「課金」、開発したアプリケーションに課金する「コミッションベース」、アプリケーションを通じて得た売り上げに課金する「間接売上げ」の4つのモデルに大別されると示した。

 これからAPIを公開する企業が考慮すべき5つのポイントは、「公開するAPIの価値」「目的とターゲット」「簡易性や操作性」「管理性」「開発者支援の充実」であり、「中でもAPIエコノミーの根幹を担う開発者の支援は、最も注力すべきだ」(伴野氏)と言う。開発者コミュニティを活性化することで、「API利用者の幅が広がり、オープンイノベーションの実現につながる」(同)。

日本IBMの早川氏
日本IBMの早川氏

API公開で新たなデータ収集も可能に

 「APIエコノミーの価値を享受するために企業がなすべきことは何か」をテーマに講演したのは、日本IBMでシステムズ・ミドルウエア テクニカルソリューション推進部シニア・アーキテクトを務める早川ゆき氏だ。APIビジネスの現状を、米欧の先進事例を交えながら紹介した。

 同氏は、「APIエコノミーの拡大で、業界の統合・融合が起こる」と指摘する。例えば、シティバンクやウエストジェット航空、プジョーといった企業は、APIを通じて公開したデータとパートナー企業が開発したアプリと連係させることで、サービスの向上や、顧客の消費行動の把握ができるようになった。

 API連係を活用することで、提供側だけでなく顧客も複数の企業が提供するサービスを一気通貫で利用できるようになる。早川氏は「業界を超えた企業間のAPI連係が必要となってくる」と力説した。

 APIを実際に外部企業に公開し、新たなサービスを連係によって生み出している企業として登壇したのが、寺田倉庫と名刺管理クラウドサービスのSansan(東京都港区)である。

寺田倉庫の藏森氏
寺田倉庫の藏森氏

API公開は自社チームも強くする

 寺田倉庫は月額250円で段ボール1個を預けられる保管サービス「minikura」を提供しているが、このAPIを「minikura API」として外部に公開した。ベンチャーを中心とした提携先の企業がAPIを活用し、物品の保管サービスを基盤とした新ビジネスを展開し始めている。

 寺田倉庫のminikuraグループ藏森安治氏は「APIを公開するには、自社のサービスを構成している要素や条件を理解し、把握する必要がある。そのために社内の異なる専門分野の担当者が集まって共通言語で会話しなければならない」と社内の開発プロセスを説明。職務領域を超えたチームで、新サービスを創出したり改善したりできたという。「APIの公開に取り組むことは、チームを強くする」というのが、藏森氏の実感だ。

相互にメリットを享受することが大切

 Sansanは連係企業のサービスから名刺のデータを利用できるようにAPIを公開している。Sansan事業部ビジネス開発部プロダクトアライアンスマネジャーの山田尚孝氏はAPIを公開する目的について「当初はデータを値付けしようと思ったが、サービスの利用動機を増やすことに切り替えた」と説明する。

Sansanの山田氏
Sansanの山田氏

 パートナー企業が利益を生めるようになれば、SansanのAPIを“ハブ”としたエコシステムが構築できる。山田氏は「パートナープログラムを充実させるなどで、相互にメリットを見いだせることが重要」と力説する。

 APIをリリースした後のフォローも重要だという。山田氏は、「パートナーの開拓による事例化と併せて、次期のAPIに求められる要件をヒアリングし続けることがポイント」と説明し、今回のセッションを締めくくった。

この記事をいいね!する