コスメ・美容の総合サイト「@cosme(アットコスメ)」などを運営するアイスタイルは、従来は別々だった16サービスの会員IDを統合した。利用者の閲覧データなどを蓄積していき、個々の関心に基づく情報の提示などを可能にしていく。統合を機に事業間シナジーの専門チームも結成し、複数サービスの利用を促進している。
ID統一は数年来、同社の課題となっていた。昨年11月に吉松徹郎社長が自社イベントでID統一の方針を改めて表明し、このほど統一が完了した。
サービス開発本部本部長の濱田健作執行役員は、「これまでユーザーの興味関心の多様化に合わせて、様々なサービスやサイトを順次展開してきた。@cosmeやECサイトからはじまり、サロン予約やブログ、動画サイトなど、個々のサービスが支持されてきたが、今後のコンテンツ規模の拡大や利便性の向上を考えて、このタイミングがサービス、IDを統一する機会だと判断した」と背景を説明する。
この結果、同社側では、ユーザーの興味関心にまつわるデータをサービスを横断して取得しやすくなった。ユーザー側にもメリットはある。単一のIDで複数サービスを利用できるのはもちろん、サイト内検索で複数サービスの関連コンテンツを閲覧できるようになった。
ただ、IDを統一しても、利用者が複数のサービスを利用しなければ、データの多様性やボリュームはさほど変わらない。
同社は対策の一つとして、「各事業内にPDCAサイクルを回すチーム、事業間シナジーを向上させるチームを置き、全社としての目標設定やノウハウ共有ができる体制を取っている」(濱田氏)と言う。
事業間シナジーを向上させるチームは、各サービスの最適解だけを求めるのではなく、全社として最適な施策を実行、検証することを目的に、部署を横断して動くプロジェクトチームとして結成させた。来訪ユーザー数を増やす、ユーザーの回遊数を増やす、サイト上でのアクションを増やす、来訪頻度を上げるなどをKPI(重要業績評価指標)として設定して活動している。
別の課題もある。会員登録しない、していてもログインしないまま、サービスを利用する人も少なくないだろう。彼らの動向はウオッチできるのか。濱田氏は「情報を閲覧するだけのユーザーの行動履歴からも興味関心を推し量ることは可能。テクノロジーの進歩によりサービスやデバイスを横断した分析もできる」と説明する。
もちろん、ログインしてもらうことで、データの付加価値は上がっていく。それゆえに、気になるコンテンツの保存やより精度の高いレコメンドなどの新機能を随時追加して利用者のログインを促進している。
違和感をおぼえない情報の見せ方を
今後、同社・ユーザー側ともに得られるデータは拡大する予定だ。現在、ブランドやサロンなどの美容事業者向けに展開している「Beauty ID(BID)」が2月中旬以降、美容関連ショップや美容事業を行う個人事業主向けにも発行される。現在(2月4日時点)でIDは6000件だが、2018年までに6万件超を目指す。
BIDを保有する事業者は、店舗の住所や電話番号、サービス内容、自身のスキルや美容情報などを@cosme上で発信できる。美容のプロとユーザーが接点を持ちやすくなり、プロは顧客を獲得できる可能性も生まれる。ユーザーは信頼できる美容情報をより気軽に手に入れられるようになる。
サービスおよびID統合により、Web上の閲覧履歴やクチコミデータ、購買情報(EC、店舗)、サロンサイトでのオンライン予約情報など、蓄積できるデータ量が大幅に増加し、データの質も多様化する。一方で、利用者に合う情報を心地良い出し方で伝えるにはどうすべきか、パーソナルデータを扱う企業共通の課題に同社も直面している。
「データを蓄積する仕組みの構築ができたので、今後はユーザーのプライバシーへの配慮をしつつ、データの価値を形にするために、仮説・検証を繰り返す体制作りが重要だ」と濱田氏は語る。
さらに、予測モデルの精度を高めて、今その瞬間にユーザーが求める情報を見せていく。そんなレコメンドも1年以内をめどに何らかの形にしていく方針だ。
