米キャタピラーはデータやVR、3Dプリンターなどを活用し、開発現場と顧客サービスにおけるデジタル変革を進めている。今回、米国本社の開発・実証施設で現地取材と幹部へのインタビューを敢行した。巨人の次の一手を探る。

 ここ数年、業績不振に陥っていた建設業界の巨人である米キャタピラーだが、回復の兆しが見えてきた。2017年通期の業績では売上高が前年に比べて18%増の455億ドル(約5兆円)、1株当たりの損益も1.26ドルの黒字に転換した(2016年は0.11ドルの損失)。さらに2018年の1株当たり利益見通しは、7.75ドルから8.75ドルの幅で伸長するとみている。

米キャタピラーの売上高と1株当たり損益(2013-17年通期)。17年の業績は売上高が前年に比べて18%増の455億ドル(約5兆円)と回復している
米キャタピラーの売上高と1株当たり損益(2013-17年通期)。17年の業績は売上高が前年に比べて18%増の455億ドル(約5兆円)と回復している
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 キャタピラーのJim Umpleby CEO(最高経営責任者)は「厳しい4年間を経て、2017年には主要マーケットの多くが回復し、当社もグローバルで素晴らしい成長を達成した。新戦略の実行開始とともに、引き続きオペレーションの卓越性に注力し、『利益ある成長』のための各種イニシアチブへ早期投資を行った」との見解を示した(今年1月25日付の同社発表資料より引用)。

 Umpleby CEOは2018年について、「高い注文率、ディーラーの在庫減、受注残の積み上がりを受け、販売面で好調な滑り出しとなった。さらに世界の大半の地域と大方のキャタピラーの最終マーケットで、前向きな経済指標が見られた。キャタピラーの工場とサプライヤー各社は今後の成長に向けた準備を整える一方で、経済に根本的な変化が生じた際には迅速に対応できるように、引き続き柔軟で競争力のあるコスト構造の管理に注力する」としている。

 建設業界向けの建機事業については、今年後半に若干の揺り戻しが想定されるが、主に中国における販売増による成長が期待されるほか、北米の住宅やインフラなども改善が見込まれるようだ。

 欧州やアジア太平洋地域でも成長が見込まれ、アフリカ/中東およびラテンアメリカ地域で始まった回復基調も今年勢いを増すと期待されている。鉱山資源業界向けの鉱山機械事業について同社は、「世界経済の勢いと資源価格の上昇によって鉱山各社の景況感と財務体質が改善される。各社が機械更新サイクルに対して投資を行い、今後の資本支出額拡大につながると予測される」とみる。

デジタル技術に引き続き投資

 昨年夏CEO職に就いたUmpleby氏が「引き続き柔軟で競争力のあるコスト構造の管理に注力する」と言及した点に、キャタピラーが進めてきたデジタル変革をさらに推し進めることを内外に明らかにしたとみることができる。

 Digital IoT & eChannel SolutionsのディレクターであるTom Bucklar氏は「新しいCEOになってもデジタル変革に変わりはないか?」という記者の質問に対してこう語った。

 「引き続き、デジタル技術に投資している。デジタル戦略面では以前と変化なく、継続して顧客利益向上のための投資を積極的に進めている」

デジタル変革について語るディレクターのTom Bucklar氏。顧客が所有する建設機械を監視するモニターセンターで
デジタル変革について語るディレクターのTom Bucklar氏。顧客が所有する建設機械を監視するモニターセンターで
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 キャタピラーはデジタル戦略を推進するための人材の確保に力を入れている。具体的には、データサイエンティストやデザイナー、デジタルソリューションを提供できる人材を積極的に採用している。

 例えば、優秀な人工知能(AI)人材の獲得は、世界的な争奪戦が繰り広げられているが、「自動運転などキャタピラーの核となる領域では、差別化するために自社で人材を直接採用している」(Bucklar氏)という。

 その一方でニッチな領域、例えばドローンによる計測などの領域では、スタートアップ企業との連携で人材を確保している。ドローンによる計測では、米エアウエアと連携している。鉱山、砕石、土木分野での3D(立体)モデルの作成とウェブでの提供に取り組むスタートアップだ。国内の販売店である「Cat販売店」は、エアウエアと提携していないが、必要に応じて国内の3D測量会社を顧客に紹介している。

デジタルプラットフォーマー目指す

 ここでキャタピラーのデジタル変革について、あらためて整理する。一言で説明するならば、キャタピラー自ら必要なデータを収集してデジタル技術を駆使し、最終的に顧客の利益を最大化するデジタルプラットフォーマーを目指している。

 データの中でも顧客のデータを重視している。顧客のデータを活用するために、どのようなデータを、どのように、どのような目的に使用しているかなど同社のウェブサイトで「Data Governance Statement」として公表している。どのように開示しているかも触れている。

 キャタピラーは1990年代前半からデジタル技術を取り入れている。同社ではコネクテッドアセットと呼んでいるが、50万以上のコネクトされた建機などの資産を有しており、「コネクトされた台数は業界で世界最大」(Bucklar氏)。

 コネクテッドアセットを使って、「デジタル」をファイナンスやレンタルと並ぶ、顧客向けのソリューションの1つと位置づけている。また、デジタルサービスの1つとしてIoTプラットフォーム(ブランド名はCAT CONNECT)を使って顧客に顧客管理や生産性向上、安全性向上などを提供。結果として、顧客の利益を最大化しようとしているのだ。

 現在、キャタピラーの工場から出荷する建機などの車両のほぼ全車に、データを送信するためのテレマティクスシステムを搭載している。携帯電話や衛星の回線を介して、キャタピラーにデータを送って蓄積している。集めたデータはデジタルプラットフォームに蓄積し、キャタピラーが顧客にとって付加価値を付けられる形に作り込んで、アプリケーションやソフトウエアを通して顧客へ提供している。

 代表的なアプリケーションとしては、建機向けが「VisionLink」、鉱山機械向けが「CatMinestar」、エンジン向けが「ProductLinkWeb」などである。

 顧客にはVisionLinkなどのアプリケーションを通じてデータを提供しており、API(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)を介したデータ提供も始めている。

 キャタピラーのコンストラクション デジタル&テクノロジーでグローバル セールス リーダーを務めているMichael Forsyth氏は「VisionLinkを使って燃料消費などのデータを見ることができる。建機のほかにもバケットなどのワークツール、顧客保有のトラックなども1つの画面で管理できるほか、ISO(国際標準化機構)で定められたメーカー間データ交換規格のAPIを利用することでキャタピラー以外の車両のデータも同一画面で確認できる。現場のあらゆる機材データを1つの画面で確認できる」と説明する。

深層学習の活用で故障予測

 日本語対応や日本国内でのオペレーション体制の整備はこれからだが、PCアプリケーションに加えてモバイルアプリの導入も進めている。

 例えば、機械点検結果を記録できるアプリ「Cat Inspect」や、部品を注文できるアプリ「Cat Parts ToGo」、現場でのタスク管理ができるアプリ「Cat Task」などだ。今後、顧客の現場で生産性向上やコストダウンなどに活用できるモバイルアプリを充実させていく。

 建機などのメンテナンス領域では、深層学習(ディープラーニング)の活用を始めている。CAT CONNECTのソリューションとして深層学習を活用した分析ツールを提供している。

 例えば、ひとたび故障すれば、約900時間のロスと約65万ドルの修理代がかかるような場合であっても、分析ツールで故障を予測。約24時間のロスと約1万2000ドルの修理代で済ませることができたという。

はしごに足が届くかをVRで確認

 キャタピラーは新しいテクノロジーを貪欲に取り入れている。

 開発拠点であるテックセンターでは、バーチャルリアリティー(VR)や3Dプリンターといったデジタル技術を駆使している。現場の生産性を向上させたり、開発時に早めに判断したりすることで、無駄な時間とお金の浪費を防ぐように支援。コスト競争力を高めている。デジタル変革を加速する取り組みの一環だ。

 VRの活用によって設計図面から立体画像を2時間程度で作成できるという。ヘッドマウントディスプレー(ゴーグル)をかけてどんなイメージになっているのかを確認できる。

 例えば、ゴーグルを装着して座席に座ると、建機の運転席からの視界の状態がどうなのか見ることができる(写真)。

 建設機械を組み上げる前に、運転席に座った状態から前方や周囲が見やすいのか、楽な姿勢で作業しやすいのか、修理しやすいのかなどを確認できる。さらに工場で組み立てやすいのかも分かるので、実現性があるかどうかを確認できるわけだ。

VRによって建設機械の運転席からの視界を検証できる(写真提供:米キャタピラー 以下同)
VRによって建設機械の運転席からの視界を検証できる(写真提供:米キャタピラー 以下同)
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 昨年暮れ、記者はイリノイ州ピオリア郊外にあるテックセンターを訪問し、VRを実際に体験した。投影ベースシステムでゴーグルを装着して座席に座ると、あたかも建機の運転席に座っている感覚になる。顔の向きを変えると、見える画像が変わっていき、360度見渡すことができた。

 建機の内部も確認できる(写真)。例えば、うまくオイル交換ができるスペースがあるかどうかが、分かるのだ。シニアエンジニアでプロジェクトリーダーのGalen Faidley氏は、VR活用の効用について「開発しているときにプロトタイプを作ると、不具合があるともう1回作り直すことになる。お金と時間の両方が無駄になる。例えば、ある機器の配電盤の裏側が見えるかどうかVRで位置関係を3次元で確認できる。もし見えなかったら設計を変更すればいい」と解説する。

VRで開発中の建設機械の内部を確認できる
VRで開発中の建設機械の内部を確認できる
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 機械にあるすべての可動部分(エンジン、走る機能を担うドライブトレーンなど)などをシミュレーションすることは可能だが、そのための設定はかなり複雑だ。「すべての可動部分を簡単にシミュレートできるようにするため鋭意準備中である」(Faidley氏)。

 「もっともドアやフィルターなどは現在でも動かすことが可能だが、エンジンやトランスミッション(ドライブトレーン)になると複雑になる」(Faidley氏)という。なお、強度などは、従来通り別のシステムで、設計強度(材質・加工)を満たしているかどうかを、確認している。

 キャタピラーは1996年から立体画像を作ってシミュレーションするようになった。ただ20年前は、外観しか表示できなかった。しかも、画像作成には2カ月もかかっていたという。それが今では複雑な立体画像を2時間で作成できる。

 設計開発で利用するようになったのは10年前で、機械の内部まで見られるようになったのは2010年以降。ここ1年で以前よりもより複雑なことができるようになったという。

 設計開発の担当者にとって、図面の段階では、大きな機械も小さな機械も同じに見えてスケール感がつかみにくい。その問題を解決したのだ。

 例えば、はしごの一段目に足が届く範囲にあるのかどうかを、VRによってすぐに確かめられるようになったのだ。足が届かないのであれば、作る前にダメ出しができる。背が低い人と高い人で確認したりもする。

 もっとも、はしごのような単純なものならすぐに不具合があるかどうか判断できる。しかし、複雑なものになると、いろいろな角度から見てチェックしなければならないので時間がかかる。もの(部位)によってチェック時間は異なる。

 Faidley氏は「いまのVRシステムは高価なので開発専用だが、いずれはいろいろなエンジニアの人たちが気軽に使えるようにしていく。まだ動かせていない部位もあるので、今後は動かせる部位を増やしていく」と今後の展望について説明する。

3Dプリンターで生産性向上

 ピオリア郊外にあるテックセンターには、11台の3Dプリンターがある。そのうち2台はプロトタイプ(試作品)用、9台は製品開発(商用)に使われている。少量部品のジグ(治具・鋳型)、(機能を確認するための)プロトタイプ、マーケティングツール、生産部品などは、主に3Dプリンターを使っている。生産テクノロジーのManufacturing EngineerであるCraig Habeger氏は、3Dプリンター活用による生産性向上について「3Dプリンターの活用によって、設計の繰り返しが可能になるだけでなく、設計変更などで新しい部品が必要になったとき、短時間で要件を満たせる。機械が製造中止になって20年以上たっても、修理に対応できる」と説明する。

 こうした場合に、3Dプリンターで即時に必要な部品を作って供給する。サプライヤーで製造すると3カ月かかるところを、3Dプリンターを使って3週間で多くの部品を作って、アジアでの新製品の製造を間に合わせたケースがあるという。

 こうして3Dプリンターを活用することで、顧客の機械が止まる時間を極力抑え、機会損失を減らせるようになり、生産性向上に寄与した。今年はじめには新型3Dプリンターを導入しており、さらにスピードが向上し、迅速な対応が可能になるという。

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2018年1月22日公開の「米キャタピラーの無人大型ダンプトラック、『コマンドセンター』と実証施設を現地取材」もあわせてお読みください。