後払い決済サービスを提供するネットプロテクションズ(東京都中央区)は、不払いを防ぐ顧客の与信判定に深層学習(ディープラーニング)を使った実証実験を行い、従来の機械学習方式と比べて判定精度を5倍向上させた。審査コストの削減で収益向上へ結びつく可能性がある。
後払い決済サービスとは、EC(電子商取引)サイトにおける支払い手段の一つ。顧客は商品到着後にネットプロテクションズから届く請求書を使い、コンビニエンスストア、銀行、郵便局のいずれかで支払う。商品到着後に現金で支払うことができるので、初めて使うECサイトでも安心して利用できる。
ECサイト運営企業は請求業務から開放される上、ネットプロテクションズが顧客の購入代金を立て替えて支払うため、未払いが発生しないのが利点。ネットプロテクションズは、商品販売金額の2.9~5%の手数料と請求書発行料190円を受け取り収益を上げる。

継続的な与信システムの改善
14年間のサービス提供で蓄積された取引データは9000万件以上。5000万件を超えたのは2014年12月でサービス開始から12年かかったが、その後は約2年半でほぼ同数が利用する見込みと成長が加速している。取引を増やすと同時に、未払いリスクを下げることが収益の拡大につながる。
ネットプロテクションズは、商品購入代金を立て替えるリスクを軽減するため、与信システムの改善を進めている。
2011年からは機械学習での判定を開始。蓄積データ量の増加や採用するデータの見直しにより、商品だけ受け取って代金を払わない詐欺まがいの取引を発見して、自動的にNG判定する率が高まってきた。
判定の難しい取引データは最終的に人が目視して判断する。その比率は機械学習導入当初は15~20%だったが、現在では4%まで削減できた。取引件数が急増しているにもかかわらず、詳細を目視して与信するスタッフは10人のまま、増員することなく運営されている。そして、自動判定を増やしても、未払い率は増加していないという。
機械学習で利用するパラメーターは、平均遅延日数、平均購入金額、最大利用金額、請求書の未到着、電話番号がつながるか、など当初は300項目ほど用意した。未払いの実績と組み合わせて見ていくと効果のあるパラメーターが分かるようになり、現在は数十に絞られてきたという。
これと同じパラメーターを使い、深層学習を使った実証実験をしたところ、精度が5倍上がった。これはまだ研究段階で実際の運用に実装してはいない。
取締役CTO(最高技術責任者)の鈴木史朗氏は「未払いの可能性の高い取引データから順に並べた上位2割のうち、本当に未払いである場合の割合が格段に増えた。なぜそういう結果が出たのか研究したい」と語る。
疑わしき取引は罰せず
代表取締役社長CEO(最高経営責任者)の柴田紳氏は、「オペレーションのノウハウがたまってきている。目視での審査は通すための審査だ。疑わしきはなるべく罰せずでやっている。不合理なNGは出さない。代金立て替えリスクを減らすには、疑わしい取引をNGにするのが早いが、それでは、利用者やショップの利便性が下がる。審査の精度をよりよくしていく取り組みは競争力になっている」と語る。
ネットプロテクションズの事業の拡大を受けて、ここ3年ほどで後払い決済の競合が9社程度増えたという。審査コストの削減を強みの一つに競争を勝ち抜く考えだ。