デジタル変革を積極的に進める三越伊勢丹特集の第2回は、2015年に切れ目なく展開してきた各種の施策を紹介する。大西洋社長は「いずれリアルの店舗は半分なくなり、デジタルになっていく」など強い危機意識を持ち、変革をリードする。

人の好みを学習する人工知能の概要
人の好みを学習する人工知能の概要

 三越伊勢丹が使っているAIは、カラフル・ボード(東京都港区)が開発した「SENSY」だ。AI科学者であり、公認会計士の資格を持つ渡辺祐樹社長は、人の好みを学習するSENSYについてこう説明する。

 「1つひとつの商品の画像から色や形、柄などの画像データに加えて、商品説明のテキストから読み取る分類(シャツとか靴とか)やサイズ、価格、機能性など、合わせて数十万種類の特徴を抽出して、センス(好み)を解析してデータ化している。タブレットに表示された商品の中から気に入ったものをタップしてもらうと、それぞれの商品にある共通したデータが抽出され、それらのデータが『好みを学習するAI』になる。商品データベースから『好みを学習するAI』のデータに近い商品を抽出して提案している」

「機械が人に」感性を合わせる

 SENSYは、「機械が人に」感性を合わせる世界を実現できる点などで一般的なレコメンドエンジンとは違うという。例えば、一般的なレコメンドは、あるジャケットはフォーマルかカジュアルかを一律に定義した上でレコメンドする。ところがSENSYは、「Aさんにとっては、カジュアル過ぎるジャケット」「Bさんにとっては、休日に着るのにちょうどいい位のカジュアル」「Cさんにとっては、オフィスで着るのに程よいフォーマル感」といったように、同じ商品でも人の感性や好みを考慮してレコメンドできるという。

 ちなみにカラフル・ボードは2014年11月、ファッションAIアプリとしてSENSYをリリースしており、世界の2500以上のブランドの商品情報が登録されている。これらのブランドの商品からその人に似合うコーディネートを提案する。気に入ったアイテムがあれば、近くの店を案内する。

 実は三越伊勢丹がSENSYを活用した理由の1つは、昨年夏前に渡辺社長が出会った人物にある。その人物とは、三越伊勢丹ホールディングス秘書室の北川竜也特命担当部長だ。

 北川氏は、NGO(非政府組織)やコンサルティング会社での勤務、EC事業を行うベンチャーの立ち上げなどを経て、2013年に三越伊勢丹へ入社している。その後、三越伊勢丹ホールディングスのWEB事業部や新規開発担当を経て、2015年から今のポストに就いている。同社の大西洋社長の命を受けて、デジタル変革のシナリオを描き、その実行のために様々なプロジェクトを走らせて、1つひとつ段階的に進めているキーパーソンの1人だ。

矢継ぎ早のデジタル施策

 北川氏が特命担当部長に就任した2015年を振り返ると、AI接客をはじめ、三越伊勢丹は様々なデジタル施策を実践している。4月10日には、伊勢丹新宿本店に「Apple Watch at Isetan Shinjuku」をオープン。アップルウオッチを取り扱うことで、ファッションと最先端テクノロジーの掛け合わせによる新しい価値の提案につなげようとしている。

 同月29日には、伊勢丹新宿本店・メンズ館でスマートフォンアプリ「ISETANナビ」をスタート。目的のブランドや商品、施設を地図で分かりやすく伝達したり、店内をナビゲーションしたりする。各階のお薦め情報の発信やスタンプラリーなども実施している。ナビゲーション用に当初、本館・メンズ館で約550個のビーコンを設置した。今ではその数を約620個へと増やしている。

 「お客様自身が気がついていないニーズに踏み込んだサービスを段階的に進めており、ISETANナビ上での伊勢丹独自のギフトアイテム提案などに反応があった。お客様からは『店内を巡る楽しみが増えた』『その週の主要なイベントやプロモーションが分かって便利』といった声をいただいた」(三越伊勢丹の担当者)という。今後は、ハウスカードである「エムアイカード」との連携や、他店での導入などの横展開を検討していく。

 昨年7月9日には、ファッションとテクノロジーをつなぐ世界的なイベント「DECODED FASHION」に参加。三越伊勢丹は、ファッションとテクノロジーの分野で優れたサービスや商品を持つ企業を世界から募集し、優勝者を決めるコンペティション「THE ISETAN CHALLENGE」を実施した。優勝したのはデジタル技術を駆使したミラー「memomi」。試着した姿を周囲360度から確認できる。複数の服を試着した姿を比較でき、衣服の色を変えることも可能だ。いずれ店舗に導入されるかもしれない。

 縫い目のない服を作る3Dプリンターの「ELECTROLOOM」が準優勝となった。ポリエステルと綿を含む液体を、型紙の上に噴霧することで、縫い目のない衣服を作る「未来の洋服の作り方」を提案した。memomiとともに、8月26日~9月1日に伊勢丹本館2階に展示した。

デジタル戦略の主な取り組み
デジタル戦略の主な取り組み

「いずれリアルの店舗は半分なくなる」

 DECODED FASHIONには、大西社長と北川氏が揃ってスピーカーとして参加。大西社長は「いずれリアルの店舗は半分なくなり、デジタルになっていく」「(三越伊勢丹グループ全体の)売上高の約1%しかないECの比率を早く10%に引き上げ、いずれ15~20%にしたい」「東京にある店舗は、今ある空間がますます重要になるが、地方の店舗は、人が少なくなるのでかなりの効率化が必要になる」と語るなど、百貨店を取り巻く環境の厳しさの一方で、デジタル変革によるリアル店舗の活性化とEC比率の向上へ強い意欲を示した。

 消費動向や流通業界に詳しい、日本総合研究所調査部マクロ経済研究センターの小方尚子主任研究員は、「訪日外国人の増加や中国人の『爆買い』もあって、2014年から百貨店全体の売り上げは増加に転じているが、恩恵を受けているのは東京や大阪、名古屋、広島、仙台、福岡といった都市部にある店舗だ。地方(中規模都市)は伸びていない。どう盛り返していくのか、模索している状況ではないか」と、百貨店の現状を分析する。

 三越伊勢丹でも、三越銀座店を筆頭に、同日本橋本店や伊勢丹新宿本店の旗艦店などは訪日外国人の恩恵を受けているが、地方の店舗はそうではないという。小方氏は「百貨店は初めて高級品を買う初心者には格好の場所。成人式の時の晴れ着や結婚式で着る衣装などは、とりあえず百貨店に行っていた。しかし、あるブランドや商品カテゴリーに詳しいプロシューマーに対応できていない。訪日外国人も高級品の初心者。このままではいずれ百貨店から離れてしまう。独自商品を仕入れるなど商品政策を見直す必要に迫られている」と指摘する。

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