スマートシティ特集の最終回は、神奈川県藤沢市で進む「Fujisawaサスティナブル・スマートタウン(SST)」プロジェクトを取り上げる。運送業者8社が宅配便のデータを集約し、企業にも消費者にもメリットを生み出す取り組みを進めている。

 全国には数多くのスマートシティプロジェクトの取り組みがある。多くは国の補助金で実証実験を行う、自治体主導のプロジェクトだ。会津若松市や札幌市の2つのプロジェクトは既存の都市インフラを維持しつつ、データ活用プラットフォームを新たに構築している。その意味で自治体主導の「既存インフラ維持型」に分類できる(下表)。

スマートシティプロジェクトの分類
スマートシティプロジェクトの分類

 一方、「インフラ再開発型」もある。大学のキャンパス跡地や企業の工場跡地などを利用するスマートシティプロジェクトだ。成果が出始めている企業主導のインフラ再開発型スマートシティプロジェクトもある。その1つが2014年から神奈川県藤沢市でスタートしている「Fujisawaサスティナブル・スマートタウン(SST)」プロジェクトだ。

 パナソニックの工場跡地約19ヘクタールの敷地に、2020年度には戸建て600戸、集合住宅400戸が建つ。既に戸建て住宅に約350世帯が生活をしている。戸建て住宅には、太陽光発電設備、蓄電池、HEMS(家庭用エネルギー管理システム)、電動自動車用コンセント、スマートテレビ、省エネエアコン、節水トイレなどが標準装備されている。パナホームと三井不動産が戸建て住宅を建てており、その多くが敷地40坪で床面積が33坪。

 「住民の方の環境意識は高く、(発電した電気の売電により)戸建て住宅における電気料金はトントンか、使い方によっては毎月数万円程度の収入があるほど。月間5万円の収入があった世帯もある」とパナソニックのビジネスソリューション本部CRE事業推進部藤沢SST推進課の和田昌子主務は話す。

 書店やカフェ、雑貨店などライフスタイルを提案する商業施設は既に完成している。サービス付き高齢者住宅、保育所、各種クリニックなどが入る「ウェルネススクエア」は昨年9月に南館がオープンし、今年4月に特別養護老人ホームが入る北館がオープンする。今後、集合住宅の建設も計画されている。2020年度に完成した暁には、Fujisawa SSTの街全体で、再生可能エネルギー利用率30%以上、二酸化炭素排出量70%削減(1990年比)などの目標を掲げている。

 Fujisawa SSTは、民間18団体からなるFujisawa SST協議会が主体となって先導し、新しいサービスを提案してビジネスを構築していくプロジェクトだ。Fujisawa SST協議会の代表幹事はパナソニック。幹事会員は三井不動産グループ、カルチュア・コンビニエンス・クラブ、学研ホールディングス、ヤマト運輸など14社。一般会員はALSOK(綜合警備保障)、アクセンチュアなど4社。藤沢市は、街のマネジメントを手掛けているFujisawa SSTマネジメントや東京電力、慶應義塾大学SFC研究所とともにアドバイザーの役割を担う。

データ集約で宅配の再配達ゼロに

Fujisawa SSTの一角にあるネクストデリバリースクエアの外観。ヤマト運輸が、同社を含む宅配事業者8社の荷物を一括して配送する
Fujisawa SSTの一角にあるネクストデリバリースクエアの外観。ヤマト運輸が、同社を含む宅配事業者8社の荷物を一括して配送する

 Fujisawa SSTには昨年11月から、各宅配業者の荷物をまとめて届ける一括配送を戸建て住宅では全国で初めて実施している。Fujisawa SSTの一角にある「Next Delivery SQUARE(ネクストデリバリースクエア)」に、ヤマト運輸を含む8社の宅配便が集められ、ヤマト運輸が一括して届けている。

宅配便の荷物に関して、当日のお届け予定情報や不在連絡をFujisawa SST内の各住宅に設置されたスマートテレビに配信する(画面イメージ)
宅配便の荷物に関して、当日のお届け予定情報や不在連絡をFujisawa SST内の各住宅に設置されたスマートテレビに配信する(画面イメージ)

 今年3月からすべての荷物情報データを集約。当日の配送予定情報や不在連絡をFujisawa SST内の各住宅に設置されたスマートテレビに配信する。居住者はテレビ画面からまとめて届ける日時の変更や受け取り場所を指定できる。それぞれの宅配業者に連絡して、荷物を別々に受け取る手間や時間が省ける。

 国土交通省によれば、宅配便の再配達率は2割を超える。業界横断のデータ共有により実現した、ヤマト運輸のオンデマンド配送によって、再配達率がどこまで下がるか、注目されている。

 自治体主導のインフラ再開発型では、柏の葉スマートシティもエネルギーマネジメントで成果を出しつつある。このプロジェクトは、千葉県、三井不動産や日立製作所、東京大学など公共、民間、大学が連携して街づくりを進めている。太陽光発電や蓄電池などの分散電源エネルギーを街区間で相互に融通するスマートグリッドの運用を開始。既に地域レベルで約20%の電力ピークカットを実現している。

 日々、街で使用されているエネルギーデータを収集しており、電力料金が安い夜間の時間帯に蓄電池に電力をため、日中の電力使用量が多い時間帯に蓄電池の電力を併用したり、太陽光などの自然エネルギーを活用したりすることによって電力ピークカットとピークシフトをしている。今後は、目標である約26%のピークカットを目指していく。

 本特集で取り上げたプロジェクトに共通するのは、複数の企業や団体がデータを収集・共有して、新たなビジネスを生み出そうとしていること。一部は、データ販売も目指す。民間企業間ではなかなか進まないデータ共有が、自治体のプロジェクトに集うことで実現する。ビッグデータ活用の数年先の姿をスマートシティに見ることができる。