スマートシティ特集の第2回は、会津若松市で進むプロジェクトの将来展望を取り上げる。2018年度以降の第3ステップではデータを創薬の参考にしたい製薬会社などに販売することになるという。

 2017年度の第2ステップでは、参加する市民を増やす(下図)。病院からもデータ提供を受けることを目指している。インフルエンザなど感染病の流行状況が分かるようになる。

今後の想定スケジュール
今後の想定スケジュール

 また、実証事業を通じて予防サービスを充実させて医療費の削減につなげていく。つまり、発症してから解決する医療から予防医療への移行を目指す。

 損保ジャパン日本興亜ひまわり生命は、こまめにデータを登録する人に対して、健康状態に合わせた保険メニューを提供できるかどうか検討する予定だ。家族も含めた生活データを基に保険料を下げるという選択肢も考えられる。医療データの分析も実施する。スマートシティプロジェクトには、医療のプロとして福島県立医科大学が参加しているが、データ分析はアクセンチュアや会津大学などが担当する。

2018年度以降にデータ外販へ

 2018年度以降の第3ステップでは、会津若松市・会津地域の一般市民にサービスを拡大していく計画だ。すべてのデータがつながる予定であり、データを創薬の参考にしたい製薬会社などに販売することになるという。API(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)を開放することで、民間企業がプラットフォームに参加しやすくする。

 既にIT企業のブリスコラ(東京都港区)が、市民の健康データなどを交換するためのAPIプラットフォームを、米マシェイプが開発したAPI管理用オープンソースソフト「Kong」で構築している。

室井昭平・会津若松市長の決断

 会津若松市がスマートシティに力を入れるようになった背景には、東日本大震災が起きた後の2011年8月、室井昭平・現会津若松市長に代わったことが大きい。会津若松市企画政策部の村井遊副参事(スマートシティ推進担当)は「室井市長はICT専門大学である会津大学(公立大学法人)を核に、ICTを生かして会津若松を発展させたいという意向を強く示した。データを軸に新たな産業集積をつくろうということになった」と解説する。

 会津若松市は元々、富士通の企業城下町であり、同社の半導体工場がある。ところが2008年9月のリーマンショック以降、会津若松市における電子部品などの出荷額が半減。「工場誘致に頼りすぎるのはよくないという判断があり、新たなものとしてICTに目を付けた」(村井副参事)と言う。

 村井副参事は「会津若松市は地方都市の典型であり、日本の縮図だ。データ活用によって解決策を出せば、ほかの地方都市にも生かせる。会津を実証実験場にして、スマートシティのモデルを作る。幸い、市民も議会も医師会も理解がある。人口約12万人は、新しい実証実験を行うには調整しやすく、ちょうどいい大きさだ」と話す。

 一方、震災復興支援のために、2011年からアクセンチュアが会津若松市に入ってきたことも、同市がスマートシティを推進するうえで追い風になっている。アクセンチュア福島イノベーションセンターの中村彰二朗センター長は「2011年7月に会津若松市と復興協定を結んだが、その後スマートシティ会津若松推進アドバイザーを委譲された。このプロジェクトは、データの収集・活用、データ分析人材の育成、実証事業、企業誘致が4点セットになっている。その上に4つの重点対象分野として、健康福祉・医療、農業、エネルギー、都市再生・観光がある」と説明する。

 多くの企業が会津若松市における地方創生に参加していることも特筆すべき点だ。2015年7月に設立した「まち・ひと・しごと創生包括連携協議会」には、アクセンチュアをはじめ、イオンリテールやインテル、SAPジャパン、日本オラクル、シスコシステムズ、シマンテック、パソナグループ、ゼビオホールディングス、NEC、日本郵便、NTT東日本、富士通、三井住友海上火災保険、東邦銀行など30以上の民間企業や各種団体が名を連ねる。

 まち・ひと・しごと創生包括連携協議会で全体の事業の方向性を定め、企画を立案する。

 そして、会津地域スマートシティ推進協議会で事業の推進と運営をしている。同協議会の代表幹事はコンサルティングやウェブ制作を手掛けるナディス(会津若松市)、事務局は農業と食を中心とした地域プロデュースの総合専門会社の本田屋本店(会津若松市)といった地元企業が務めている。

データ分析産業の集積目指す

 今年4月、会津大学の卒業生数人がアクセンチュアに入社する。いずれも地元会津若松市にあるアクセンチュアのオフィスで働く。会津大学にとっても、会津若松市にとっても画期的なことだ。

 村井副参事はこう解説する。「会津大学の学生を、アクセンチュアに入社できるレベルの人材に育成できるようになった背景には訳がある。この5年間、会津大学とアクセンチュアが連携して情報技術だけでなく統計、ビジネスコンサルティングなどを実践できる高度なデータ分析人材を育成してきたからだ」。

 会津大学は1993年4月に福島県立大学として開学。約7割が県外から入学するものの、卒業後は約8割が会津若松市を離れて東京などに行ってしまうのが現状だった。こうした状況を打破するために、会津若松市はデータ分析人材といった給与の高い人材を雇用する企業の誘致に努めている。

 アナリティクス産業集積を目指してICT専門ビルの建設も計画。「約500人の収容が可能。2018年度末の完成を目指す」(村井副参事)。

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