地方創生の切り札となるスマートシティプロジェクトが全国各地で進む。大目標の下、企業が利害を超えてデータ共有するビッグデータの実験場でもある。第1回は会津若松市で進む市民モニター対象の実験を取り上げる。

歴史的な町並みを残しながら、「データ活用型スマートシティのモデル」を目指す会津若松市。写真は1937年に完成した、歴史的建造物である会津若松市役所本庁舎旧館の外観
歴史的な町並みを残しながら、「データ活用型スマートシティのモデル」を目指す会津若松市。写真は1937年に完成した、歴史的建造物である会津若松市役所本庁舎旧館の外観

 福島県会津若松市のビッグデータ活用が全国の企業、自治体から注目を集めている。

 同市が進める「スマートシティ会津若松」プロジェクトは、個人の健康福祉・医療に関する様々なデータを、企業の壁を越えて持ち寄り、新たな価値創造に挑んでいるからだ。

 スマートシティは、市民のパーソナルデータや自治体が保有するオープンデータの収集・活用によって都市を活性化する取り組み。会津若松市はこれまで、環境・エネルギー、防災、観光、交通、健康・福祉、市民サービス、行政、都市基盤、農業といった各分野で16に及ぶ実証実験を実施してきた。

市民ポータルにデータ収集

 会津若松市のデータ活用の取り組みを説明するうえで、欠かせない仕組みがある。市民ポータル「会津若松+(プラス)」だ。年齢や性別、家族構成、趣味嗜好といったパーソナルデータを入れると、その人のバックボーンに応じた行政サービス、企業の情報を出し分けて提供する。

 例えば、子育て中の人には子育て手当の情報を提供するが、子孫がいない人にはあえて出さない。利用状況も学習し、健康関係の情報をよく読む人には、関連した記事が前に出やすくなるというわけだ。

 会津若松+の会員は現在2万5000人。約12万3000人の市民全体の約2割が利用している計算だ。目標は3割だという。

 そして昨年から「会津若松市スマートウェルネスシティIoTヘルスケアプラットフォーム事業」がスタート。会津若松市におけるスマートシティ事業の一環として、街全体でICT、IoT(Internet of Things)により保険医療のデータを収集・活用していく。市民の健康意識の向上と行動変容を促し、健康産業の創出を目指している。

 国による支援の下、自治体、民間企業、大学、病院、薬局などが連携・共創する国内初の試みだ。ヘルスケアIoT基盤という1つのプラットフォーム上にデータを蓄積し、分析することによって創出される新たなサービスによって、市民の健康・運動に対する意識を向上させ、データの連係による医療・介護の質的向上と効率化を目指している。そして、これらのサービスについて、個人情報保護などの規制面や技術面での課題を洗い出す。

 具体的には、スマートフォンのアプリケーションや、スマートウォッチやベッドセンサーといったセンサーを使ったサービス、健康診断・保健指導、病院での治療や薬局での調剤などによるデータがヘルスケアIoT基盤に蓄積される(下図)。

会津若松市IoTヘルスケアプラットフォーム事業の全体像
会津若松市IoTヘルスケアプラットフォーム事業の全体像

 個人情報の保護、倫理的に配慮したルールおよび仕組みによって、各データを名寄せして、ビッグデータとしての分析を可能にする。利用者は、ヘルスケアIoT基盤で一元的に自身が受けるサービス、データ共有の許諾・拒否を管理できる。

 さらにハッカソンなどによって、データ利活用とサービス開発の促進を図る。ベンチャー企業を含めて多数の企業や病院が参加しやすいオープンな場づくりを推進する。

 企業による新たなサービス・商品、自治体サービス(保健指導や健康増進事業)、病院や薬局などによる治療・予後管理・予防などの効果的な手法を開発。新たなサービスによりデータがより蓄積されることによって、連携をさらに促進し、産業創出のサイクルを回していく。

市民モニター100人がデータ提供

 2016年度である第1ステップでは、市民モニター100人が参加。スマートウォッチからバイタル(心拍数、歩数、移動距離など)データ、ベッドセンサーから睡眠(呼吸、体動、イビキ)などのデータ、薬の服用検知センサーから服薬データをヘルスケアIoT基盤に吸い上げて蓄積している。会津若松市からは本人の同意の下に健康診断データをヘルスケアIoT基盤に送っている。市民モニターは会津若松+で、こうして集めた自身の健康情報を一覧できる。

 市民モニターが利用できるサービスの1つが、おいしい健康(東京都中央区)のWebサービスだ。気になる症状とプロフィルを登録すると、自身の健康状態に合わせた献立が作成され、閲覧できる。おいしい健康はヘルスケアIoT基盤から、健診データやその他の健康状態データを取得・分析することで最適な献立を提案できる。

 損保ジャパン日本興亜ひまわり生命もサービス「リンククロス シル」を提供する。市民モニターそれぞれが読んだ健康に関する記事などに応じて、最適な記事が毎日配信される。