名古屋市に本社を置く不動産会社のTSONは、分譲住宅の商品開発にデータを徹底的に活用して成長を続けている。本誌と日経リサーチが共同で調査した「第1回 データ活用先進企業ランキング」の開発部門で4位に入った。

 分譲住宅事業部住宅市場データ室では独自の「TSONマーケティングシステム」を活用して、ターゲット市場を一目で理解できる「半径2㎞立地天気図」を作成。社内の誰もが簡単に市場データを利用できる体制を整備しているのが、ランキング上位に入ったポイントだ。

 A4用紙1枚にまとめられた半径2km立地天気図には、大きく「半径2km圏内のターゲット状況」「半径2km圏内の需給状況」「商品・ターゲット&販売方針」の3項目の情報を記載している。

 「業界で長年蓄積されている経験に客観的データを無理なく融合させ、分譲住宅事業の精度をさらに向上させる仕組みを構築している」と小間幸一執行役員は話す。

競合200社の供給を独自調査

 ターゲット状況とは、国勢調査や独自のネット調査、外部企業の販売データを基に、住宅購入の中心層である6歳未満の子供がいる世帯数、年収や住宅への好みを左右するホワイトカラー層とブルーカラー層の比率、新しく住宅を買う可能性がある転入世帯数、借家を利用する比率などを、県平均と比較してまとめてある。

 需給状況は、半径2km圏内で年間にどれだけ購入があるか、それに対して競合は何戸販売しているか、成約価格や販売にかかる期間の相場などをまとめたものだ。

 販売・成約情報は同社独自のデータだ。商圏とする愛知・岐阜・三重の3県で分譲住宅を販売する約200社のホームページから、毎月全7000件程度の情報を収集して集計している。学生や主婦のパートタイマーを組織化して集める。ホームページから販売物件情報が消えれば「売れた」と判断し、直前の掲載価格を販売価格とする。分譲住宅の建築に関する統計はあるが、販売に関する統計が存在しないという。そこで独自に収集している。

 このターゲット状況と需給状況のデータを基に販売シナリオを立てる。売れている物件を参考に価格帯を決め、太陽光発電などの設備を付けるか判断する。また、民営借家が多い地域であれば家賃との比較を打ち出すなど販促の訴求点を定め、他社の実績から販売が長期化しそうであれば販促費は小出しに投入していく──こうしたシナリオを定める。

物件周辺の需給を調査し、商品設計を定めるTSON
物件周辺の需給を調査し、商品設計を定めるTSON

 「小売りなどでは当たり前のことだが、分譲住宅の業界はKKD(勘、経験、度胸)で売ってきて、地元の状況が分かっていれば売れてきたのが実情。しかし、消費増税や少子高齢化の影響で回転率を上げていくことに四苦八苦している。そこで当社では販売の効率化を考えてデータを活用している」

 小間氏はTSONマーケティングシステム開発の背景をこう説明する。

 立地天気図はTSONマーケティングシステムから情報を抽出して作成する。分譲住宅用の土地の購入時、住宅の建築開始時、販売開始時の3段階で作成し、担当者がデータと知見に基づき、土地の購入や商品の価格、販売方針を決定している。社内ではデータはゼンリンの地理情報システム(GIS)を使って、各種データを閲覧できる態勢にしている。

 住宅販売は政策や景気動向にも大きく左右される。そこで、景気総合指数、通貨量、国債利回りなどのマクロなデータもデータ室でまとめて、役員レベルに月1~2回程度説明をする。

 こうしたデータ活用を徹底した商品企画・開発、販売の結果、適切な価格で競争力がある商品の投入が可能になった。

データ整備の自動化も展望

 TSONマーケティングシステムを活用して、他社の賃貸・戸建て住宅の販売を支援する広告企画事業や、他社の事業用賃貸物件の商品開発・企画立案を担うコンサルティング事業も手掛ける。

 同社は2015年3月、東京証券取引所のプロ向け市場TOKYO PRO Marketに上場した。2016年6月期の売上高は前の期と比べて19.0%増の14億1100万円で純利益は同37.9%増の7300万円を見込む。

 課題は事業拡大に合わせたデータ作成の体制整備だ。分譲住宅の販売・コンサルティング事業で手掛ける棟数は2014年度の54棟から2015年度は70棟を目標しており、こうした事業を推進するなかで顧客にデータを提供していく。また、関東地方の会社などからもデータ提供の依頼が寄せられている。一方で、データ室は2人体制、立地天気図は1時間程度かけて作成しているという。現状の体制では事業拡大に追いつくのが困難だ。小間氏は「販売シナリオ作成の部分は人工知能的なもので自動化したい」と展望を語る。

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