新生銀行は2月中にも、人工知能(AI)を活用して算出した商品別の購入予測確率に基づくマーケティング活動を始める。約300万人の顧客データを用いて開発しており、検証では従来比5倍の契約率を出しているという。
予測モデルは、特定の顧客のカードローン、外貨預金、住宅ローン、生命保険、投資信託といった商品別の購入確率を算出する。さらに、Web広告、ダイレクトメール(DM)、電話など、どの方法でアプローチするのがよいかも示す。
活用するデータは社内で保有する約300万人の顧客情報だ。具体的には、口座開設の月・目的、生年月日や職業、Webサイト上の行動履歴、口座の入出金やATMの利用時刻、住宅ローンや消費者ローンの利用実績や残高など、約300万人からサンプリングした30万人の過去5年分のデータをAIに学習させている。残り270万人は検証用データとした。

モデルを開発したセカンドサイト(東京都千代田区)の加藤良太郎社長は、「100以上の変数を使っている」と明かす。セカンドサイトは、新生銀行子会社の新生フィナンシャルが昨年6月、データ解析のグリフィン・ストラテジック・パートナーズ(東京都港区)とともに設立したAIなどの最先端技術を研究開発する会社だ。
アルゴリズムについては、「(どの変数が影響しているかが分かる)ホワイトボックスモデルである決定木分析やロジスティック回帰も試しているが、勾配ブースティングやRGF(Regularized Greedy Forest)といった最新のアルゴリズム、それらを組み合わせて成果を高めるアンサンブルなども試したうえで、ブラックボックスによるモデルを開発して採用している」(加藤社長)。
新生銀行は従来も商品購入確率の予測モデルを作り、確率が高い顧客へDMを送ってきた。AIを使った予測モデルで精度が上がるかを検証するため、2016年に実施したDMのデータを使って従来モデルと比較をした。従来モデルではツリー分析や回帰分析などで既存カードローン顧客に似た傾向を持つ10のセグメントに対して、カードローンのDMを送っていた。
検証に際しては、その中で最も高い契約率だったセグメントの約8000人を基準値として、AI予測モデルによる購入確率が高い上位約8000人を選定して実際の契約率を調べた。その結果、従来モデルと比べて契約率は約5倍も高くなったという。
顧客に最も適切な商品を薦められる
2月以降には実際に、AI予測モデルで作成した顧客リストをマーケティングに活用する。まずはカードローンで購入予測確率が高い人に販促をして、従来のモデルとの違いを検証する。
新生銀行リテール営業統括部統括次長顧客分析担当の青木克憲氏は、「従来は、特定商品の販促施策を実施するたびに、顧客ごとの特定商品群の購入確率を求めることが多かった。今回は、提供しているサービス・商品を網羅的に分析し、円定期、投資信託、外貨預金、仕組預金など10個の商品区分の購入確率予測から、顧客ごとに最も適切な商品を選べることが取り組みの意義、強みだと思う」と話す。
第1弾となるカードローンの販促成果を見て、今後は取り組み領域を拡大していく。カードローンでは、事前与信スコアと事前与信枠の算出の準備も進めている。モデル自体はほぼ開発できており、業務への適用を今後詰める。「ただローンを申し込みませんかとアプローチするのではなく、事前に貸し出せる金額を提示する方法も実施したい」(新生銀行コンシューマーファイナンス部の中原教貴副部長)。
住宅ローンについてはさらに、資金ニーズが顕在化する前の潜在ニーズを抱える顧客を発見してアプローチすることを目指し、研究開発を進めている。
こうしたAI予測モデルは、新生銀行が日本長期信用銀行当時から金融商品・サービスを提供する取引先関係にある地方銀行などにも提供していく方針だ。
筆跡データも活用へ
さらなる精度の向上へデータの追加投入も予定している。ユニークなのは、商品申し込み時の顔写真や筆跡画像の活用を探っていることだ。例えば丁寧なサインをする人はローンをきっちりと返すのか、それとも関係ないのか…。そうしたことを探っていく。
また、外部データの活用も見込む。政府のオープンデータなどに加えて、株価や為替のマーケット概況は投資信託商品の販売に関係があるだろうと見ている。ただ、そうしたリアルタイム性が高いデータを活用するには、予測モデルと連携してWebサイト利用者に個別の情報を表示するなどのシステム開発が必要になる。
「分析は社外に任せて、その結果の生かし方に注力したい。ITと密接に連携するので検討、開発に時間を使いたい」(中原氏)と、分析はセカンドサイトに任せて役割分担を明確にする方針だ。
新生銀行は第三次中期経営計画(2016年度~2018年度)で、「グループ融合により革新的金融サービスを提供する金融イノベーターであること」を、経営ビジョンの筆頭に挙げる。このAI予測モデルもグループ顧客の情報を反映したり、グループ企業で広く活用してもらったりすることでシナジーを発揮していく考えだ。
既にクレジットカードのアプラスフィナンシャルと連携しているほか、銀行の行員向け、法人取引部門向けに勉強会を開いており、社外への展開も見込む。「分析モデルとPDCAの成果をグループに展開し、グループ間の商品のクロスセルにも生かしたい」と中原氏は展望する。