メキシコとの国境にも近い米国アリゾナ州ツーソンは、周囲を山に囲まれた鉱山都市である。そこに米キャタピラーのデモや実証などのための2大施設がある。今回、現地で同施設と幹部への取材を敢行した。
「ティナハヒルズ デモンストレーション&ラーニング センター」の敷地内には、無人の大型ダンプトラックの運行を管理するコマンドセンターと呼ぶ施設がある。トラックの正しい操作のパラメーターを設定して、自律的な操作ゾーン(Autonomous Operating Zone=AOZ)内の有人および無人の車両をすべて監視して、生産性の向上と安全性の確保に活用している。

コマンドセンターは、無人の大型ダンプトラックが最も効率的なルートで移動するためのコースを決定する。コースは最初、コマンドセンターからセットアップするが、状況が変わると、自律的な操作ゾーン(AOZ)のオペレーターが、トラックとコースのパラメーターを更新できるようになっている。
無人大型ダンプトラックはセンサーの塊
無人大型ダンプトラックには、2台のGPS(全地球測位システム)と64台のレーザーハイビジョン「LIDAR(Laser Imaging Detection and Ranging)」を備えるなど、まさにセンサーの塊だ。

GPSは1cm未満の精度で位置を感知し、位置と方向の最高精度を保証するために2つのGPSが一緒に使用されている。LIDARと連携して、いくつかのレーダーセンサーを使って、近くだけでなく遠くの状況を把握。その結果、最高速度で(現状で時速60kmが可能)自動運転している。用途にもよるが、給油せずに48時間以上稼働し続けることができる。無人なので、オペレーターの休憩や交代が不要になる。
無人の大型ダンプトラックは道路を調査しながら走行し、運転条件やAOZ内の他のトラック、障害物などを考慮して、走行速度などの決定を行う。また、コースがどのような状態かを感知して、コマンドセンターに情報をフィードバックする。これによって作業員が道路の状態を測量する必要がなくなり、少数の人員でのオペレーションを可能にしている。
各鉱山にコマンドセンター
こうした無人の大型ダンプトラックは、顧客企業の鉱山で稼働している。ティナハヒルズのセンターと同様に、コマンドセンターがあり、そこにキャタピラーのマネジャーとアプリケーションエンジニアが1人ずつ駐在し、顧客の要員と連携を図っている。彼らは長年の経験を持ち、人、プロセス、技術が調和して動作するよう、個々の鉱山現場の最適化に取り組んでいる。
米キャタピラーのグローバルマイニング マイニング・テクノロジー・イネイブルド・ソリューションズの南北アメリカ地区担当ソリューションズ・マネジャーのJohn K. Deselem氏は、スーパーバイザーの1人である。
Deselem氏の役割は、鉱山現場の状態と機械の状況を管理することだ。走行支援道路システム(Advanced Cruise-Assist Highway System=AHS)は単なる機械の自動化ではない。顧客のプロセスや人員が自動化技術を最大限に活用できるように最適化されているかどうかもマネジメントしているという。
こうした顧客の鉱山にAHSを導入するためには、最適化の準備期間が必要だという。顧客の計画が完璧であったとしても、人とプロセスが技術を最大限活用するためには、実際のサイトで稼働し調整する必要があるからだ。顧客ごとに期間は異なるが約1年かかる。
顧客のプロセスが最適化されていない場合、導入前に修正しておかないと、自動化によってかえって効率が悪化する可能性もあるという。
2011年から本格稼働
キャタピラーは1990年代に無人ダンプトラックの開発を開始し、1997年にキャタピラー製の自律トラックが顧客サイトで稼働した。
ただし当時は、ダンプトラックの自動化に対するニーズはあまり高くなかった。その後に労働コストの上昇と技術の進化が相まって、2000年代にビジネスケースが変化。2007年にキャタピラーは大規模な鉱業分野でのAHSのテストと検証を開始した。そして2011年に、顧客の鉱山で無人大型ダンプトラックの最初の稼働を開始したのだ。

現在、キャタピラーは「793F」および「797F」の無人大型ダンプトラックを鉱山で稼働させており、今後24カ月以内に様々なサイズの4つのトラックを投入する。また、コマツ製無人大型ダンプトラック「930E」についても、鉱山の顧客のところで自動運転させている。顧客はコマツの製品も持っているので、AHSを使用して無人運転モードで移動できるようにしている。コマツの「930E」に「Catダンプトラック」で使用されているのと同じハードウエアを使うことによって、「793F」および「797F」で提供されているものと同じ安全性と生産性を実現している。
さらに、キャタピラー製ロータリードリル「CAT MD6640」も、顧客のところで自動運転しているが、今後数年間で自社製および他社製のドリルについても様々なモデルで自動運転を適用していく。
ダンプトラックのサイズを大きくすることは、オペレーターの数を減らすことが目的だった。しかし、自動化によってオペレーターの数を減らすことになったので、今後はより大きなダンプトラックを使用するビジネスケースは変更されるかもしれない。無人小型ダンプトラックが顧客に利益をもたらす可能性もあり、鉱山の状況に合わせて最適な使い方が検討されていく。
例えば、無人小型ダンプトラックの場合は、運搬路を狭くできたり、できるだけ高速に走行したりすることで効率を上げることができる。
開発チームの実証試験場も
キャタピラーの開発チームがバリデーション(製品の技術的根拠や妥当性)を検証する広大な試験場もある。
「ツーソン プルービング グラウンド」と呼ばれるそこでは、ソフトウエアやハードウエアを顧客にリリースする前に修正や改善を行っている。テスト期間は、最大6カ月。開発を急ぐ必要がある場合は短くなることもあるという。
キャタピラーは毎年、無人運転技術に関する2つのソフトウエアをリリースしている。最も新しいソフトウエアでは、新たな機能を追加して顧客の利益と安全性を向上させている。
例えば、ダンプトラックのサイクルタイム(途中の積み込み、ダンプ=下ろす作業、方向転換、待ち時間などを含めた一往復する時間)を短縮することで、ダンプトラック1台当たりの積載量を増やすことなく、時間当たりの生産性(1時間当たり何トン運搬したかの数値)を向上させることができる。
仮に250トン積みダンプトラック5台が稼働していて、現状で一往復30分かかっている場合、ダンプトラック1台・一往復当たり10秒短縮できると、ダンプトラック全体の作業量として、単純計算で1年間で12万トン以上増えることになる。なお、この試算は、給油やメンテナンスなどダンプトラックの休車時間を含まない100%稼働での単純計算になる。
「AIで現場のプロセスを自動化」
深層学習など人工知能(AI)についても検討を始めている。「10年以内に次世代機にAIを導入する。AIの導入効果は、安全面の機能を高めることができるし、様々な価値も高めることができる」(Deselem氏)。
機械学習による最適化に向く仕事についてDeselem氏はこう説明する。
「機械学習は次のソフトウエアを開発する際、データを使って何をすべきかを判断しやすくなるという利点がある。現場のプロセスを自動化することで、サイクルを短縮できる。また履歴データを使用することで、どの点を注意するべきかの手がかりになる。機械が作業現場でどのように動作しているのか、どのように動いているのか、理解できる。機械に加えて、作業する人々が疲れて集中力が低下するパターンも学ぶことができる。主に人々(の活動のアサイン)の最適化でより効率的なスケジュールを組めるようになる」
キャタピラーは今年、無人大型ダンプトラックの稼働台数を200台程度に増やす。これまでキャタピラーの鉱山の顧客は世界で4社、稼働している無人大型ダンプトラックの台数は100台超だが、今年は世界で8現場(鉱山)に増えるからだ。