本田技研工業と、AIスタートアップ企業のNextremer(東京都板橋区)は昨年11月7日から12月22日にかけて、AI(人工知能)の音声応答技術を活用した観光案内の実証実験を実施した。レンタカーを運転するドライバーに対して音声対話で誘導するのが目的で、実現性や使い勝手について一定の成果を得た。

 沖縄県那覇市を中心に30台のレンタカーを活用し、専用の車載ナビゲーションとスマートフォンを搭載した。専用のアプリを起動し、AIがドライバーと対話しながら、クルマの走行している位置や方向に合わせて音声で観光案内を行った。

実証実験で使ったレンタカー
実証実験で使ったレンタカー

 AI音声応答技術による観光案内を体験したのは一般の観光客。コンパクトカーを予約している観光客が配車カウンターに来た際に、簡単なリーフレットを用意して、ホンダの実証実験に協力を仰いだ。実験の目的はクルマの開発に生かすことと伝えたほか、使い方についての説明は最小限度にとどめた。約1カ月間で延べ約200組、約460人がAI音声応答技術による観光案内を体験した。

 具体的にはアプリ上の3人のAIキャラクターが観光案内人になって、ラジオのように一方的に情報を提供。ドライバーや助手席に座っている人間が興味を持ったら、「もっと詳しく教えて」「そこまで案内して」と、音声で応える。

専用ナビゲーションとAI音声応答技術による観光案内アプリが起動できるスマートフォン
専用ナビゲーションとAI音声応答技術による観光案内アプリが起動できるスマートフォン

 なお、AI音声応答技術による観光案内は、アマゾン・ウェブ・サービスのクラウドサービスAWS(Amazon Web Services)上にある、Nextremerの対話システム「minarai」が自動で行っている。minaraiは人間の発話に対して認識・応答するAIだ。レンタカーはトラベルレンタカーの那覇空港店が協力した。

ドライバーに刺さるキーワード

 プロジェクトを推進するホンダ ビジネス開発統括部ビジネスアナリティクス課の中島慶・技術主任は実証実験の狙いについてこう解説する。

 「文字だと柔らかく伝えられないが、言葉だと伝えられると考えた。AI音声応答技術の活用による誘導の可能性について検証することが実証実験の大きな狙いだ。そのために誘導のシナリオを作って、毎週検証した」

 実証実験では、ドライバーの心に刺さるキーワードをいくつか考えた。そのキーワードに基づいてシナリオを考えて、そのシナリオ通りにうまく誘導できたかどうかを検証した。

名護市の「二見そば」を案内する画面
名護市の「二見そば」を案内する画面

 例えば、名護市に地元で評判の蕎麦屋「二見そば」があり、そこに誘導するというシナリオを作って検証した。クルマが走行している位置や方向を考慮して、AIキャラクターによる観光案内の中に「二見そば」というキーワードを盛り込んで、ドライバーなどの関心を引くようにした。

シナリオ通りに誘導できたか検証

 信号が赤になってクルマが止まると、ハンドルの左脇にあるナビゲーションに二見そばの紹介画面を映し出したりした。ドライバーが興味を抱いて「二見そばまで案内して」と話してから、ナビゲーション画面の「目的地へ設定」ボタンを押すと、現地までガイドしてもらえるというものだ。

 「ドライバーがどう反応したのか音声ログを蓄積して、ログ解析を行い、シナリオ通りに誘導できたのか、毎週見直した」(中島技術主任)という。ちなみに、実際にシナリオを書いているのは、Nextremerの高知AIラボにつめている同社社員。ホンダからシナリオの修正に関する方針がフィードバックされると、内容にもよるが数十分後には、新しいシナリオが書き換えられて実行されるという。

「眠いので、何とかしてほしい」

 今回はドライバーの発言内容にも注目した。 「ドライバーがAI音声応答でどのようなインタラクティブなコミュニケーションをするのかにも注目した」(中島技術主任)。

 とりわけ目立ったのは、「自分のホテルまで案内してくれ」という要望だったり、「眠いんだけれど、何とかしてほしい」という要望だったりした。今後は、例えば「眠い」という要望についてAIキャラクターがクイズ形式の質問を出すなどの対応を行う予定だという。

 今回、沖縄地域のドライバーの方々も尊重しながら、現地の特性が分かる会話にしている。

 例えば、AIが「沖縄県は外国人観光客のドライバーの方も多く運転していたり、様々なパターンの運転マナーが入り乱れていることもあって、ドライブしていると『あ、危ない!』という光景を目にすることがあります」と伝えたり、「ハートのステッカーを貼っているクルマは外国人観光客ドライバーの方々が運転しているんだ」と伝えたりしている。

 こうしたメッセージを出して、安全運転に関して注意喚起した効果によるものかは分からないが、実証実験期間中に1台も事故を起こさなかったという。

毎日、シナリオを見直す

 ホンダとNextremerは、これらのログ解析を行っており、1月中旬からスタート予定の第2弾の実証実験に備えている。シナリオについては、毎日見直す予定だ。具体的なシナリオについては検討中だが、観光スポット案内だけでなく、ルートも音声で案内・紹介する予定だ。

 シナリオを作る際のデータについては、ホンダのカーナビゲーションシステムである「インターナビ」が蓄積している「急加速」「急ブレーキ」といった危険箇所の情報や天候情報、商業施設のイベント情報やタイムセールスの情報などを活用。これを基にシナリオを検討していく。

 なお、Nextremerと組んだことによってホンダではプロジェクトを加速させることができたという。「昨年のお盆明けぐらいから動き出し、11月に実証実験をスタートできた。AIスタートアップ企業との共同プロジェクトでないとこれだけの短期間ではできなかっただろう」(中島技術主任)。

 一方、Nextremerの高橋太一COOは「当社だけでは難しかった、実証実験に関係するステークホルダーの方々との調整をスムーズに進めることができた。何よりクルマメーカーの安心・安全に対するとてもシビアな考え方を目の当たりにできた点は、大いに勉強になった」と話す。