妊娠に向けた活動(妊活)の支援サービスを提供するファミワン(東京都渋谷区)は東京大学情報理工学系研究科電子情報学専攻の山崎俊彦准教授と共同で、自然妊娠にかかる期間を予測するシステムを開発した。本システムを活用して今年前半にも支援サービスを刷新し、データに基づく個別の助言を行う方針だ。
日本では夫婦の18.2%が妊活(検査や治療)を経験している(国立社会保障・人口問題研究所「第15回出生動向基本調査」)。少子高齢化が進む中、未婚比率の上昇、待機児童の問題と並ぶ社会課題だが、「妊活への注目度はまだ低い」と石川勇介社長は指摘する。
ファミワンは石川社長が自分自身の妊活経験を契機に、2015年6月に設立したベンチャー企業だ。昨年12月にバイエル薬品のオープンイノベーションプログラム「第2回 Grants4Apps Tokyo」で「グッドテクノロジー賞」を受賞したほか、森永製菓、メットライフ生命保険のオープンイノベーションプログラムに採択されている。ビッグデータで社会課題を解決する可能性に注目が集まっている。
同社は妊娠したい女性をサポートするサービス「FLIPP(フリップ)」を提供する。身長、体重、年齢などに加えて、食事、運動、夫婦関係、ストレス、生活習慣の5分野100の質問(5段階のリッカート尺度)への回答を基に、妊娠に向けた状況を無料で診断する(医療の診断・治療ではない)。生活習慣などの質問は、聖路加国際大学不妊症看護認定看護師教育課程専任教員の川元美里氏が監修した。
月額9800円を払うと、妊活によいとされるサプリメントや自然食品の提供、個人に合わせた改善の助言など「妊娠力をアップさせるためのサービス」(同社)を提供する。妊娠した場合には、祝い金5万円を提供する。
68人の回答から推定する
昨年12月に完成した予測システムの開発の狙いについて、石川社長は「妊活において病院で検査をすることは非常に重要だが、なかなかすぐに受診しないのが現実。そして、不確かな情報が多すぎて、何をしたらいいか分かっていない方も多い。予測システムがあることで自分自身がやるべきことが明確になり、『10カ月で妊娠しなかったら検査に行こう』といった判断の拠り所になればいい」と語る。
妊娠までの期間を予測したい人はまず、現在FLIPPで実施しているのと同様の身長、体重、年齢、生活習慣など5分野100の質問(現行サービスから一部変更あり)に回答する。
システムでは、生活習慣など5分野20問の回答を集計して、どれだけ妊娠によいとされる状況かを各分野で1つの数値にする。そして、身長、体重、年齢と5分野で合計8つの特徴ベクトルを算出する。
一方で、自然妊娠をした68人のアンケート回答データから同様の手法で特徴ベクトルを算出して、予測システム利用者と似た傾向を持つ人のグループを選び、その人たちの自然妊娠までにかかった期間の分布から、「Nカ月以内で妊娠する確率はp%」という予測値を導き出す。アンケートデータはファミワンが収集した。

また、妊娠までの期間を効果的に早める助言を3つ表示する。これもアンケート回答を基にしている。
あなたは
・運動について+1点分改善すると良いでしょう。
・ストレスについて+1点分改善すると良いでしょう。
・生活について+1点分改善すると良いでしょう。
・背中が曲がっていた(猫背)と感じていた
・友人の赤ちゃんには会いたいと思っていた
・タバコを夫婦のどちらかが吸っていた
上記の3つなどを少し改善するだけで50%の確率で妊娠するのが5.5ケ月以内から4.5ケ月以内になります。
開発には全体で半年程度かけ、毎週のように手法を改善し、精度を向上させていったという。「医療系のデータの場合はサンプル数が数十件ということも少なくない」(石川社長)。今回もデータ数が少ないのが課題だった。
システム開発に携わった山崎研究室の中村遵介氏は、「データ数が少ないため学習用データと検証用データの分割さえできず、サポートベクターリグレッション(SVR)やランダムフォレストなど今時の機械学習の手法では過学習になりうまくいかない。類似のアンケート回答をした複数の妊娠経験者から確率密度を推定するとことにした」と開発の苦労を語る。
山崎准教授は、「過去に妊娠経験がある人は一般的にはこんな傾向であり、(自分の妊活期間での妊娠確率と比べることで)病院に行くべきかどうかを判断できるようになった。最低ラインには達したと考えているので、予測ツールの公開を呼び水に大規模なアンケートでデータを集められれば、さらにシステムを改善できる」と語る。
石川社長は、「今年前半には予測システムを公開してFLIPPをバージョンアップしたい。アンケートの回答データに基づいた生活習慣の改善や病院への案内など個別の支援を強化する」と、システム活用の展望を語る。
データが多く集まれば、現在は一律に扱っている100の質問がどれだけ妊娠までの期間の短縮に寄与するかも考慮して、予測システムを改善できるとみている。
妊活は、結婚や子育てと比べるとまだ社会的な注目度が低く、関連サービス市場や国の支援が確立していない。これがファミワンの事業拡大における大きな課題だ。同社は今後、FLIPPを刷新して課金収入で成長し、将来は「妊活の入口」の立場を確立して、医療機関や製薬会社へのデータ提供や誘導により収益を拡大していきたい考えだ。