化粧品会社のポーラは1600万件(2016年1月時点)に及ぶ女性の肌ビッグデータを所有、分析し、顧客への助言や製品開発などに役立ててきた。昨年11月には日本気象協会(東京都豊島区)の気象データと重ね合わせた新たな取り組みを開始。多数のメディアに取り上げられ、ブランドイメージの向上にも貢献している。
女性の肌ビッグデータを分析し、47都道府県別にランキング化する「ニッポン美肌県グランプリ」が毎年話題だ。同グランプリを主催するポーラは昨年11月、日本気象協会(東京都豊島区)の気象データと自社で保有する1600万件(2016年1月時点)の肌データを掛け合わせ、美肌づくりをアドバイスするサイト「美肌予報」の提供を開始した。
「2012年に開始したニッポン美肌県グランプリの開催が2~3回目を迎える頃、隣接する県であるにもかかわらず、毎回上位にランクインする県とそうでない県の違いが鮮明に見え始めていた。一例は1位として常連の島根県と中間順位にある鳥取県」(アンチエイジング美容研究室主任研究員の山川弓香氏)
気象データ6項目×肌データ10項目
これらの結果には地形を含めた気象の違いが関係しているのでは――そんな仮説を立てた同社は、日本気象協会が保有する気温、降水量や日照時間など全6種類の気象データと肌データを掛け合わせた結果、肌の手入れ方法を47都道府県別により詳しく提案できると確信。こうして生まれたのが、各都道府県に住む女性の翌月の肌状態を予測し、適切なケア法を教えてくれる美肌予報だ。
女性の肌の専門家であるというポーラというブランドイメージの向上を狙った取り組みであり、5つのテレビ番組を含む76メディアに紹介され大きな反響を呼んだ(2015年12月時点)。
前出の肌データは、同社が27年前から展開するブランド「APEX」のスキンチェック(16歳以上の女性が対象)を通じて収集される。その件数は2015年では年間73万件にも上る。スキンチェックは1人何回でも受けられ、同社では3カ月に1回のチェックを推奨している。
こうして全国のポーラの店頭や訪問販売先で、肌の角層細胞を摂取したり、肌カメラで撮影したりして取得したデータを肌分析センター(静岡県袋井市)に送る。分析が終わるのは約1週間後だ。
導き出される肌データは、毛穴・角層細胞のはがれ方/並び方/面積、潜在シミ、コラーゲン繊維、糖化、毛細血管、キメ、皮脂など全10項目。これらで1セットとなる。本データに顧客の郵便番号や生年月日、スキンチェックと分析をした日付、通し番号が付帯し、氏名はセキュリティの関係上、データ保管時には外され、厳選された少人数の研究員だけがデータと個人情報を照らし合わせることができる。
全国展開する異業種とのコラボを検討
センターで分析した肌の画像はデータ1件につき5枚程度あるが、最も鮮明で分かりやすい画像を1枚印刷し、分析結果(アドバイスシート)や各人の肌に合うスキンケアサンプル1週間分と共に客の手に渡る。ポーラ側ではサーバーへの負荷を考え、肌画像自体は保管せず全て数値データ化して保管している。
「毎年70万件を超える肌データを無償で収集できるのは本当にありがたいこと。これまでは取得したデータを商品開発に活かす“内向き”の使い方だったが、いただいたデータを元に女性たちへ貢献しようと始めたのが美肌県グランプリや美肌予報。これからも“外向き”のデータ活用を行っていく」(山川氏)
昨年11月には東京家政大学栄養学科とコラボして、美肌県グランプリ上位県の食文化を調査する取り組みをするなど、異業種とのコラボを推進し、新しい情報の提供や美容文化への貢献を強化する予定だ。肌データはAPEX以外のエイジングケア商品「B.A」や美白ケア商品「ホワイトショット」などの開発へも大いに生かしている。
「将来的には全国展開しており、47都道府県の女性のデータを保有する企業との連携を考えている。2社のビッグデータを掛け合わせることで、自社のデータが生きていく」と山川氏。組み合わせるデータ次第で新たな価値を創造できる好事例はまだまだ他にもありそうだ。