三井住友フィナンシャルグループ(三井住友FG)は、深層学習(ディープラーニング)を使ってクレジットカードの不正検知の精度を上げる検証を行った。不正利用の疑いがあると判定した取引のうち、本当に不正な取引だった比率を従来の5%程度から90 %程度へと大幅に引き上げることに成功した。
現在の不正検知は、まず、カード利用の場所や時間、金額などのパラメータを人が決めた特定のルールにのっとってチェックし、(1)正常な利用、(2)不正な利用、(3)不正な疑いがある利用、の大きく3種類に判別。疑いがある取引について、人が店舗や利用者に問い合わせをして確認するという手法をとっている。疑いのある取引の中で約95%が問題のない取引で、本当に不正である取引は5%程度だという。
今回、過去数カ月分のクレジットカード利用のデータを使い、不正検知アルゴリズムを深層学習を用いて開発した。クレジットカードの使用履歴、使用金額、使用場所、店舗属性などの項目間の相関関係を分析しながら、モデルの最適化計算を繰り返し行うことで、アルゴリズムが不正な疑いがあると判別した取引のうち、本当の不正取引の比率は約90%と大幅に向上した。そもそも不正な疑いがある比率が大きく低下して、正常か不正な取引かをはっきり見分けられるようになった。もちろん、不正を見逃す比率が増えているわけではないという。
不正検知の精度が上がれば問い合わせ作業が減り、その結果カード会員や店舗への負担も軽減することができる。三井住友銀行ITイノベーション推進部などが、ITコンサルティングのJSOL(東京都中央区)と共同で、「グーグルクラウドプラットフォーム(GCP)」上で深層学習を使って検証をした。
ITイノベーション推進部副部長の井口功一氏は、「過去のデータに対して、深層学習を使った場合は効果が比較しやすい。その結果、かなりいい数値が出てくるので恐ろしさを感じるほど。まだ実験の段階で、これを業務に落とし込むとなるとまた違った課題が出てくるが、効果があるとわかれば(事業会社、業務部門に)提案しやすくなる」と話す。

コールセンターへは全席導入
三井住友銀行は、このほかにもさまざまな業務への人工知能(AI)の活用の可能性を探っている。システム統括部副部長の高橋健二氏は、「現在進めているAI活用の軸は大きく3つある」と説明する。1つは安心・安全なサービス提供、2つ目は、顧客サービスの向上や行員の生産性の向上、3つ目はチャットボット(自動会話プログラム)のような新たな顧客体験の実現だ。
実際の業務ですでに成果を挙げているのが、コールセンターの対応品質向上を目的とした米IBMの「Watson」の活用だ。活用軸の2つ目に該当する。2014年より順次導入を進めてきたが、昨年10月、2カ所あるコールセンターの300席全席への導入が完了した。
実際の業務では、顧客からの問い合わせに対し、Watsonが内容を解釈して回答候補をオペレーターに提示する。実用検証を進めた結果、上位5位までの回答候補の中に適切な回答が含まれる割合は、現在では9割を超えているという。
安心・安全面へのAI活用の一例がサイバーセキュリティー対策だ。これまではメールやウェブで共有されたセキュリティー情報を人が確認して対策をしてきたが、外部の膨大な情報をAIで自然言語処理して、役立つセキュリティー対策情報を自動で導きだせるようにする。米国で業務を展開する金融機関が参加する、セキュリティー情報分析結果の共有を目的とした組織である「FS-ISAC」が提供する25 万件以上の脅威情報などを活用する。
チャットボットは、日本マイクロソフトと開発を進めている。マイクロソフトが公開するオープンソースの深層学習開発ツールを使い、対話全体の文脈・意味を捉えて質問の追加や変化にも対応が可能なシステムを開発する。まずは行員向けの照会回答業務から利用を開始して精度の向上を進めており、顧客向けサービスへの利用の可能性を探っていく。
データから答えは出てこない
膨大なデータをどう活用していくのかが今後の課題だと、井口氏は言う。
「AIは魔法の杖のように思われがちだが、やはり使い方がある。何をどうすれば業務をよくできるのか。それを定義して、業務向上に相関するデータは何なのかを探っていく必要がある。データからは答えは出てこない」
ITイノベーション推進部では、AI活用ステップのフレームワーク化を進め、各部署に共有し、活用をさらに加速しようとしている。
三井住友銀行は、昨年4月にデータマネジメント部を新設している。金融機関におけるデータ部門はリスク管理を主目的とすることが多いが、「銀行の規制の観点だけでなく、お客さまのため、生産性向上のための観点を加えたデータ整備を進めている」(データマネジメント部副部長の宮内恒氏)。
銀行の口座の入出金や振り込み、金融商品の購入、クレジットカードの購買履歴といった従来型のデータだけでなく、ウェブサイトやアプリのログ、コールセンターの音声データなど爆発的に増えていく新たなデータも含めて、AIなどで業務改善や顧客体験を向上させるために必要なデータを使える状態に整備していく。