「100万本を超えればヒット商品の市場。高価格帯にもかかわらず1年弱で400万本を超えたのは、ほぼ前例がないこと」。こう語るのは、シャープペンシル「デルガード」の開発に携わったゼブラ研究開発部商品企画課の小野陽祐氏。同商品は2014年11月発売で、定価の450円で換算すると売り上げ規模は18億円に達する。2015年の日経MJヒット商品番付にも入った。
デルガードの特長はパッケージに大きく記された「もう、折れない。」に集約される。シャープペンへの長年の不満である芯が折れることをなくしたのだ。同社が小学生から大学生を対象に実施した調査でも、シャープペンの不満点は8割近くが「芯が折れること」と回答している。その不満解消を期待した購入者が使用して本当に折れないことを実感し、口コミで広がり大ヒットになった。

「もう、折れない。」ことを一点突破で、大きく訴求できたことがヒット要因だ。ここにはデータによる確たる裏付けがあった。
行動観察調査で分かったこと
デルガードの研究開発が始まったのは2009年。当時は、常に細い字を書けるように自動的に芯が回転する三菱鉛筆の「クルトガ」など高機能シャープペンが登場し、市場が活性化していた。この高機能の市場にゼブラとして何を打ち出せるか。利用者の長年の不満を解消する、芯が折れないシャープペンの開発に踏み切った。
しかし、メーカーとして「芯が折れにくい」ではなく「芯が折れない」と断言するのは難しい。そこで、シャープペンの中心顧客である中高生の利用実態を調査することにした。定量的なアンケート調査はもちろん、開発途中の2013年12月には、埼玉県の大手学習塾に協力を仰いでエスノグラフィー(行動観察)の調査を実施した。
小野氏自らも出向いて注視したのは、学生がシャープペンの芯をペン先からどれくらい出して使っているのかということ。芯が折れるかどうかは、その長さが大きく影響するからだ。学生数十人の芯の長さを計測して、その平均的な長さでは芯が絶対折れないように商品を設計することにした。そこから3回以内のノックに耐えるという結果を導きだした。
デルガードは、縦方向の筆圧にはスプリングが作動して筆圧を吸収し、斜め方向の筆圧には先端の金属パーツが飛び出して芯折れを防ぐ。利用実態を踏まえて、製品に負荷を加えて芯が折れた瞬間の加重を測る実験をした。他社製品が1kgf(重力キログラム、1kgfは1kgの物体が地球表面で受ける重力の大きさ)を超えたあたりで折れてしまうのに対し、デルガードでは、計測装置の限界である3kgfを超えるまで耐えることができた。
書き心地にもこだわる。50人の利用者を招き、2種類の試作品の書き心地を評価してもらい、支持が多い試作品を選んで製品化した。
シャープペンの利用実態と芯の性能を徹底的に調査して得たデータから、こうして「もう、折れない。」と力強いキャッチコピーを打ち出すことができた。ちなみに、芯を4回以上ノックして出した場合などは「芯が折れる事があります」とパッケージに注釈を加えて対応している。
顧客を知るためにID-POSへ期待
小野氏は商品開発において、「まず新しいアイデア、気付きが大切」と語り、そのきっかけを得られる消費者インタビューや、店頭や商品の利用現場でのエスノグラフィー調査などに力を入れる。また、ソーシャルメディアへの投稿は「デルガードに関しては発売以来の全投稿を見ていると思う」(小野氏)というほど、顧客の声に注目する。
また、「お客さんは買う時に迷っているはず。ただ、アンケートで尋ねても購買動機は自分でも正確には答えられない」と考え、今後はID-POSデータの活用に着目している。どんな属性の人が、どんな商品と併せて買っているのかなどを知ることで、顧客理解を深められると期待する。
調査会社の矢野経済研究所は、2014年度の国内シャープペンシル市場規模はメーカー出荷金額ベースで前年度比5.1%増の145億円と推定。デルガードのような高機能・高付加価値商品によって、少子化にもかかわらず市場が拡大したと指摘している。
顧客にまつわるデータを得る手段は多様化が進む。ヒットメーカーによるデータ活用の深化に注目したい。