オムロンヘルスケアは、スマートフォン向けの健康管理アプリ「OMRON connect」の提供を開始して、データ活用戦略を大きく転換した。連携サービスを広げることで、医療・健康機器の販売シェアを世界的に高めることを目指す。
OMRON connectは昨年4月に台湾と中国でサービスを開始したのを皮切りに、オーストラリア、欧州と展開を進め、11月には日本での提供も開始した。今年中には米国でのサービス提供開始も予定している。
日本での対応機器は血圧計7機種から始め、昨日、1月10日には、新たな対応機器として活動量計「オムロン 活動量計 HJA-405T カロリスキャン」を発表した。

OMRON connectのアプリは、対応機器とBluetoothで通信して、記録したデータを収集、管理できる。自分のスマートフォンに保存するだけなら、ID登録は不要でデータ活用のハードルを下げているのが特徴の一つだ。

ID登録してクラウドにデータを保存すると、他の端末でもデータを確認したり、他のサービスと連携したりできる。米アップルの健康管理アプリ「ヘルスケア」と連携することでも、ヘルスケアに連携する多数のアプリとデータ連携できる。
国内での連携アプリは、昨年11月時点でヘルスケアや生活習慣病の自己管理アプリ「Welbyマイカルテ」(ウェルビー提供)など6種類。今年1月以降の対応機器の拡大に伴い、ダイエットアプリ「あすけん」(ウィット提供)など10アプリの対応が予定されている。
自前主義との決別
オムロンヘルスケアは2010年から「ウェルネスリンク」の名称で健康管理サービスを提供してきた。今年12月でサービスは終了し、OMRON connectに完全移行する大きな戦略転換である。
この背景とOMRON connectのビジョンについて、グローバル事業企画本部コネクテッドデバイス事業推進部の藤本幸一・国内事業統括担当部長はこう説明する。
「ウェルネスリンク開始当時は、データを使うアプリは少なかった。だからダイエット支援サービスも含めて自前でやってきた。今は、そうしたサービスが広がり、当社は機器メーカーとしては各サービスでたくさん使ってもらうことがカギになる」
ウェルネスリンクでは原則、他サービス・アプリとのデータ連携は対応していなかった。OMRON connectでは、他企業も利用者の許諾を得た上で、オムロンヘルスケアの対応機器のデータを容易に利用できる。「オープンにデータを展開することで機器を使ってもらい、その価値を上げていく」(藤本氏)ことが狙いだ。
もう1つの背景は、同社のグローバル戦略だ。オムロンのヘルスケア事業の売上高の7割は海外で、血圧計の世界シェアで46%を占める(同社調べ、金額ベース)グローバル企業だ。
自社の健康管理サービスにしか対応しない機器ではなく、世界中の様々な健康管理アプリ・サービスで記録したデータを使えるようにする。それにより機器のシェアを一層拡大させるのが方針転換の狙いだ。
「ゼロイベント」に商機
機器の利用者が増えれば、データを活用した新たなビジネスも検討しやすくなる。同社は脳・心血管疾患の発症リスクを予測し、未然に防ぐ「ゼロイベント」活動を進めている。具体的には、血圧測定の頻度を高めて、危険な血圧変動をとらえ、疾病リスクを予測し、発症を防ぐことを目指す。
ゼロイベントが実現すれば医療費削減に大きく貢献できる。OMRON connectを通じて集めたデータ、疾病リスクの予測アルゴリズムなどが医療、健康支援、保険などの業界で活用される可能性がある。
ちなみに、慶應義塾大学病院が昨年11月に開始した「Apple WatchとCareKitを活用した患者ケアの臨床試験」では、OMRON connectに対応した血圧計が通院患者や退院患者に貸し出された。日々、家庭で測定されたデータを病院がモニタリングできる。
藤本氏は「我々は血圧計の精度、医者への認知、信頼で強みを持つプロフェッショナル。この医療機器の世界が、『コネクテッド』という(インターネットで接続して)データを使ったサービスに広がっていく。その世の中が変わるところに多様なメーカーが参入のチャンスを狙っている」と語る。
ビッグデータでプレーヤーの顔ぶれが大きく変わる可能性がある医療、健康市場で、現在のシェアを維持、拡大できるのか。その危機感がデータのオープン化戦略への転換に結びついた。近日、OMRON connect対応の体重体組成計の新製品の発表も予定している。対応製品を増やして、管理できるデータを増やすことで利用者価値を高めていく。