「【特集】勃興するAPIエコノミー」の第2回は実際にAPIを活用して新サービスを開発、運用する企業を取り上げる。まず、倉庫を管理するためのAPIを外部企業に公開することで新サービスを生み出している寺田倉庫を紹介しよう。

 寺田倉庫は2012年に個人向けの保管サービス「minikura」を開始した。月額250円で段ボール1個を預けることができ、中身のアイテムも30個まで撮影してくれるのがウリだ。

 このサービスを実現するための機能を「minikura API」として公開した。ユーザー登録、荷物の集荷や出庫、アイテムの撮影、アイテムの閲覧などの管理といったものがある。特徴的なのはAPIによる指示で東北地方にある倉庫に勤める作業員が実際に動くこと。2013年にはヤフーと提携して、ユーザーが保管している物品をオークションにそのまま出せるようにもした。これもAPIとして利用できる。

 こうしたAPIを利用したサービスが次々と現れた。

 例えば、嗜好品の情報をやりとりするSNSを運営するサマリー(東京都港区)は、minikura APIを活用したアイテム保管サービスの「サマリーポケット」を2015年9月に開始。格納したアイテムは寺田側で写真を撮影してもらえるので、それをSNSの「サマリー」に投稿し、ユーザー間で共有することで所有している感覚を演出している。

 サマリーの北村慧太CTOは「実際に開発するとなると倉庫業務を把握・分析する必要があった。とても3カ月では立ち上げられなかった。またクラウドサービスのように倉庫の容量を気にしなくて済むのも助かっている」と振り返る。

 エアークローゼット(東京都港区)は女性服を3着まで月6800円でレンタルできるサービスをminikura APIを利用して実現している。顧客から引き上げた女性服を保管し、次の利用者へと出庫するサービスを寺田倉庫のAPIを活用して構築している。

 APIを活用し、寺田倉庫自身の効率化にもつなげている。自社の段ボール保管サービスの「minikura」のほか、ワインや美術品、文書などの保管サービスでも活用しているという。「社内でも同じAPIを活用すれば安価で早く構築できる」(minikuraグループの藏森安治氏)。

寺田倉庫はAPI活用で、社内外の新規事業のハードルを下げる
寺田倉庫はAPI活用で、社内外の新規事業のハードルを下げる

共有の名刺情報を他で生かす

 クラウド型の名刺共有・管理サービスのSansan(東京都渋谷区)が提供するデータ連係のAPIを活用する1社が、顧客対応電話サービスを提供するシンカ(東京都千代田区)である。

 シンカのサービス「おもてなし電話」は顧客から着信すると、APIでSansanのデータベースにアクセス。その顧客の情報をPCやタブレットに表示する。「名刺交換の機会が多い税理士法人の顧客から、Sansanの名刺情報が出たらいいのにと言われてAPIを使おうと考えた。電話がかかってきた時に相手の名刺情報が分かり、誰の紹介かまで把握でき対応がスムーズになったと喜ばれている」(シンカ)という。レストランの予約であれば、相手がリピーターかどうかも把握できるようになる。

 Sansanはシンカのほかに、日本郵政グループのJPメディアダイレクトが提供する年賀状やダイレクトメール送付サービス「B2B LoveLetter」との連携を始めている。同サービスからSansanのデータを参照して、年賀状などの宛先を指定できる。

「Sansan」とデータ連係する、シンカのクラウド型顧客対応電話サービス
「Sansan」とデータ連係する、シンカのクラウド型顧客対応電話サービス

収集情報をAPIでまとめてお渡し

 資産管理サービスを提供するマネーフォワードは、金融機関など約3600のサービスから、取引残高やポイントなどの情報を取得している。

 しかしほとんどの金融サービスはAPIでのデータ連係に対応していないため、マネーフォワード側のシステムがWebブラウザーをエミュレートしている。それぞれの顧客のIDとパスワードで、実際にオンラインバンキングのサービスにログインして情報を取得している。一般にウェブスクレイピングとも呼ばれる手法だ。

 マネーフォワードはこうして独自のノウハウで集めることができる金融サービスの口座情報などを、他社にAPIで提供している。他社の顧客がそうしたサービス情報を得るにはユーザー登録が必要であり、マネーフォワードの利用者拡大につながるからだ。

 例えば、2015年から連係を始めた関西電力の電気使用量を知らせるWebサービス「はぴeみる電」は130万ものユーザーを擁しており、「API連係によってマネーフォワードの利用者が数千の単位で増えた」(マネーフォワードの田平公伸執行役員 マーケティング本部長)。マネーフォワードははぴeみる電に、個々の顧客のTポイントや楽天スーパーポイントなどのポイントサービスの残高をまとめて提供している。

 資産管理アプリはマネーツリーをはじめとして、様々な企業が参入しており競争が激化している。マネーフォワードは自社で、クラウド型の会計ソフトサービスを提供しており、それらの利用の呼び水にもなる。

マネーフォワードは自社サービスで集めた情報を他社にAPIで提供する
マネーフォワードは自社サービスで集めた情報を他社にAPIで提供する

健康・医療データを様々な用途に

 健康や医療の分野でもAPIによるデータ連係が始まりつつある。APIによって多種多様のデータが連係することで、医療の高度化や健康アドバイスの適正化が図れる。

 健康コーポレーションの子会社でフィットネスクラブを展開するライザップは、健康データの解析・統計モデリングを専門としているヘルスデータ・プラットフォーム(東京都港区)のAPIを活用。会員向けに医療費負担額の軽減を予測するサービスを提供している。

 例えば、会員の血液検査データと体組成計データを入力すると、ライザップでのダイエットなどで負担額軽減がどれだけ期待できるのか可視化する。従来であれば結果が出るまで数日かかっていたものが、その場で分かるようになるのがメリットだ。

 ヘルスデータ・プラットフォームの中村大介社長は「約360万人分のレセプトデータと150万~180万の健康診断データを基に、『医療費予測モデル』を開発してAPIとして提供している」と言う。こうしたデータは「重傷化予測モデル(心筋梗塞や脳卒中、人工透析が必要になる腎臓疾患などの発生確率)」にも応用できると言い、「健診機関や検査業者と商談を進めている」(中村社長)。

 フィットネスクラブは、個々人の身体や健康状態に応じて個別のトレーニングメニューを提供するケースが増えているため、「個々の課題に予測モデルをAPIで提供できるように検討している。将来的には、活動量データ(歩数や消費カロリーなど)と健診データをひも付けて、『どのくらい運動したら効果が出るか』を予測するモデルを開発する構想もある」(中村社長)。