データや機能をAPIで公開し、利用する動きが本格化している。単なるサービス構築の手段ではなく、外部の力を競争力に取り入れるパラダイムシフトが始まった。

 フランスの大手銀行クレディ・アグリコルのサイトにはアプリのマーケットがあり、支出を管理したり、不動産を探したりする、iPhoneやAndroid用のスマートフォンアプリが掲載されている。

 これらはアグリコルの公開している口座情報などを取得するAPI(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)を活用して、外部の企業などが開発したものだ。その数は50以上にものぼり、残高確認のアプリもユーザーの好みでインターフェースや機能を選択できる。

フランスのクレディ・アグリコルのアプリマーケット。外部企業が開発した、スマホアプリが並んでいる
フランスのクレディ・アグリコルのアプリマーケット。外部企業が開発した、スマホアプリが並んでいる
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 APIとはソフトウエアやデータベースの機能やデータを外部から利用可能にする仕組み。アグリコルのようにAPIを開放し開発のガイドを提供することで、「顧客に対する新サービスをさほどコストをかけずに外部の力で追加していくことが可能となる」と、金融とITを融合したFintech事情に詳しいマネーフォワード(東京都港区)の浅野千尋取締役CTOは説明する。

APIエコノミーは250兆円以上に

 こうしたAPIの活用による経済効果について、米IBMは2018年に2兆2000億ドル(264兆円)とそろばんをはじく。企業がデジタル化された情報資産をAPIを通して公開することで、新たなサービスや産業が生み出されることを想定しているのだ。

 米国ではマシェイプ(サンフランシスコ市)のようにAPIエコノミーを支える企業も登場。開発者などが自分のAPIを提供できる「マーケットプレイス」を用意している。

 データや金融、教育、場所、スポーツや旅行など18のカテゴリーのAPIが提供されており、“出店料”は無料で、API利用の売り上げの2割をマシェイプ、残りを開発者が受け取るという仕組み。登録している開発者の数は10万以上だ。

 公開されているAPIの数は約1500だが、非公開の「プライベートAPI」がこれ以上あり、マシェイプを介して特定の企業に提供している。

 APIの将来性には名だたる投資家も注目してきた。

 マシェイプは2011年にイタリアからシリコンバレーに移転。米国に来るとすぐにベンチャーキャピタルなどから資金を得た。総額で約1億6000万ドルの資金調達に成功している、出資者の中には米グーグル会長のエリック・シュミット氏や米アマゾン・ドット・コムCEO(最高経営責任者)のジェフ・ベゾス氏などそうそうたる面々が顔を並べる。

 一方、欧米に比べてAPI活用の盛り上がりに欠けていた日本だが、その構図も変わりつつある。それを先導するのが個人向けの資金管理サービスを提供するマネーフォワードやマネーツリー(東京都渋谷区)、クラウド型の名刺管理サービスのSansan(東京都渋谷区)のようなベンチャーである。

 日本の通信会社やITベンダー、金融などの大手企業も雪崩を打ったかのように乗り出してきている。「日本でも銀行を中心にAPI標準化の活動が急速に進み、流通や物流・倉庫、製造など従来から社外とのデータ交換に積極的な業種でもAPIの活用が進んでいくのではないか」(日本IBM システムズ・ミドルウエア テクニカルソリューション推進部の早川ゆきシニア・アーキテクト)。

API公開の目的は大きく3つ

 APIを公開する企業の目的は大きく3つに分けられる。まずは自社の持つデータを外部の企業に提供するケース(図のA)。自社データの収益化を図るのが狙い。経路検索サービスを提供する、ヴァル研究所(東京都杉並区)やナビタイムジャパン(東京都港区)などがこれにあたる。

APIを外部に公開している主な企業とその狙い
APIを外部に公開している主な企業とその狙い

 ヴァル研究所は駅経路検索の「駅すぱあと」の機能をAPIで公開しており、交通費を計算する企業の会計システムやWebのサービスなどと連係させている。

 例えば、クラウド型のWeb会議サービスを提供するブイキューブは、駅すぱあとのAPIを活用し、Web会議システムを導入することで社員の出張旅費がどの程度削減されるのかを試算して顧客に提示している。モバイルファクトリー(東京都品川区)は、ユーザーの緯度経度から「駅」情報を取得し、位置ゲームで活用しているという。

 ナビタイムは「NAVITIME API」を通じて、ナビゲーション機能を提供している。電車に加えて、徒歩、車、などの手段で到達時間を割り出せることから「不動産や派遣業のサイトで多く使ってもらっている」(法人事業部営業グループ中林拓也マネージャー)。

 2つ目の活用方法が自社のアプリやサービスへのユーザーの誘導とデータの集約である。APIを開放して連係アプリやサイトを増やしていき、それら連係先のユーザーを自社のアプリやサイトに取り込んでいくという構図だ(図のB)。連係先が増えるに従って利便性が向上し、重要なデータがB社のサービスに蓄積され手放せない存在となっていく。

 例えば、マネーツリーの場合、資産管理ソフトの「Moneytree」を、弥生(東京都千代田区)の会計ソフト「弥生シリーズ」などとAPIで連係させている。「Moneytreeで全国の金融機関の取引データを集約したうえで、それを弥生シリーズにAPIで取り込んで、日々の資金管理や確定申告に利用できる。Moneytreeを利用している中小事業主が弥生を選択することもあるだろうし、弥生のユーザーがMoneytreeを使い始めてくれることもあるだろう」(マネーツリーChief of Salesのマーク・マクダッド氏)。

 Sansan(東京都渋谷区)は現在2社とAPIを連係させている。事業部ビジネス開発部の山田尚孝プロダクトアライアンスマネジャーは「API連係を発表したところ問い合わせが想定の4倍の200件ほど来た。約15社とAPI活用で契約しており、2016年春までに順次サービスが投入される見通し。API連係によって、Sansanを使ってもらう動機を増やしたい」と狙いを説明する。

 最後の3つ目が新規サービスのプラットフォームとなるような動きである(図のC)。

 NTTドコモはスマホを活用したIoTサービスを開発しやすくするプラットフォームサービス「Linking」を投入した。IoTのデバイスとスマホアプリの両方のAPIを用意して、サービスを連携できる。

 例えば、スマホで取得した天気情報を小型のIoTデバイスに送り、雨ならば特定の色に光らせて知らせるといったことができる。「既に5個以上の製品化が進められており、月に1製品以上は投入していきたい」(移動機開発部システム企画担当の石川博規担当課長)。ドコモには、「iコンシェル」のようなユーザーの生活を支援する自社のスマホアプリの価値を上げる、またユーザーのセンサー情報を得るといった狙いがある。