マツダが取り組むデザインドリブンのブランド改革を追う特集の第1回。2017年10月、東京モーターショー2017でベールを脱いだ「VISION COUPE」は、2015年に発表した「RX-VISION」と双璧を成す、マツダデザインの新たな象徴。マツダデザインは今もなお、次なるステージへ進化を続けている。
伸びやかで優雅な4ドアクーペ。東京モーターショー2017で世界初披露となった「VISION COUPE」は、マツダ社内で「ビジョンモデル」と呼ばれるデザインスタディモデル。現在のマツダが考える最高のカーデザインを具現化した渾身の1台は、マツダデザインの今後の方向性を示す最注目モデルだ。
というのも、VISION COUPEはモーターショーに出展される、いわゆるコンセプトカーでありながら、ショーの舞台を華やかに演出するためだけの“ショーカー”ではない。通常、自動車メーカーがモーターショーで発表するショーカーは、実現不可能だったり、市販時に全く異なるデザインへの変更を余儀なくされたり、結局のところ絵に描いた餅になりがちだ。しかし、VISION COUPEは、マツダが進むべき次なるカーデザインを指し示した、まさに“ビジョンモデル”なのだ。
ビジョンモデルの役割とは?
マツダには今、3台のビジョンモデルが存在する。2010年発表の「靭(SHINARI)」は、その後に発売されたすべてのマツダ車のデザインに強い影響を与えたマツダデザインの象徴だった。2015年発売の4代目「ロードスター」であれ、2017年発売のSUV、2代目「CX-5」であれ、2012年以降に発売されたすべての新世代商品はSHINARIに込めたデザイン哲学を踏襲し、スポーツカーやSUVといったジャンルに即した解釈を行って、群として統一感のある動きのリズムを表現してきた。
SHINARIの誕生から7年後に発表された最新のビジョンモデル、VISION COUPEは、マツダデザインの次なる象徴だ。SHINARIでは、動きを表現するためにボディ側面に入っていたキャラクターラインが、VISION COUPEにはない。かといって、VISION COUPEのデザインが退屈だったり単調だったりするかというと、けっしてそうではない。
一見すると単純なVISION COUPEのボディは、これまで表現してきたリズミカルな動きを抑制し、研ぎ澄まされた引き算の美学を追求した造形だ。一切の無駄を削ぎ落としたような凝縮感を与え、極めてシンプルでスピード感あふれるワンモーションフォルムは、ボディショルダーに凛とした緊張感のあるハイライトが走り、光を反射して輝く。
ボディサイドの多彩な映り込みや光と影の移ろいも、豊かな面表現によるものだ。シンプルな立体で引き算の美学を体現するVISION COUPEには走行中、絶えず周囲の景色が映り込み、それらの動きがクルマに生命感をもたらす。2010年のデザイン改革から、マツダ車の表現は、クルマが異物ではなく自然に溶け込む存在へと、より繊細に、より豊かに進化してきた。そのマツダデザインがいよいよセカンドステージに突入し、カタチに生命を与えるという魂動デザインの新たな表現を生み出そうとしている。
マツダのもうひとつのビジョンモデルが、2015年に発表した「RX-VISION」だ。ブランドの魂を宿すロータリースポーツコンセプトのRX-VISIONも、マツダが挑む新たな表現を示した、次世代マツダデザインのもう一方のブックエンド。VISION COUPEと対の存在であることは随所に見て取れる。
スタイリングでいえば、フロントからリアまでが1つのラインで描かれたVISION COUPEは直線的。RX-VISIONは、柔らかで曲線的な印象だ。VISION COUPEは長いボディショルダーいっぱいに硬質で研ぎ澄まされた光を映すが、RX-VISIONが映す光は、ボディ側面で柔らかくZ字形に移ろう。
カラーリングは、VISION COUPEが硬質でシャープな印象のマシーングレーの進化系。RX-VISIONはブランドカラーとして使われてきたソウルレッドの進化系となる艶やかなレッド。VISION COUPEが日本刀のような「凛」を表現するなら、RX-VISIONは花の「艶」。2台の特徴は、それぞれのデザインによって明確に表されている。
次世代マツダデザインの真髄、引き算の美学を体現した2台のビジョンモデル。「生命感」も「凛」も「艶」も、2010年からマツダがデザイン哲学として掲げてきた魂動デザインの重要な要素だ。VISION COUPEの削ぎ落としたようなシンプルで伸びやかな表現や、RX-VISIONの艶めかしいまでの生命感は、今後登場するマツダ車にどのような進化をもたらすのだろうか。
(写真提供/マツダ)