デジタルマーケティングの今を理解するのに欠かせない最新トレンドのキーワードを紹介事例と共に解説。大ヒットムックから改めて紹介します。(※「最新マーケティングの教科書2018」(2017年12月14日発行)の記事を再構成 )
自社サイトを持たないメディアとして注目を浴びた「分散型メディア」だが、収益構造の課題から踊り場を迎えている。かつて注目を浴びたサービスはスマートフォン向けアプリへと収益を得る場を移す動きが広がっている。
1分程度の動画の中で料理のレシピを紹介したり、メーキャップのハウツーを紹介したりする。そんな動画をFacebookやInstagramで目にする機会が増えているのではなかろうか。これらの動画メディアは「分散型メディア」と呼ばれる。dely(東京・品川)の料理動画「kurashiru(クラシル)」、エブリー(東京・港)の「DELISH KITCHEN」、オープンエイト(東京・渋谷)のお出かけ情報に特化した動画メディア「ルトロン」などが代表的なサービスだ。
分散型メディアの最大の特徴は、自社のWebサイトを持たないこと。通常のWebメディアは、コンテンツを掲載するための母体となるWebサイトを持ち、そこに記事や動画などのコンテンツを掲載するのが一般的だ。一方の分散型メディアは、FacebookやInstagramといったSNS上に公式アカウントを設け、そこに読者を集める。人気サービスであれば、公式アカウントに集まる読者の累計は数百万人に上る。その公式アカウントに対してコンテンツを配信する。
このように自社のWebサイトを母体とした中央集権型ではなく、コンテンツをさまざまなWebサービス上に分散させることが分散型メディアと呼ばれるゆえんとなっている。自社サイトを持たない点がメディアの新たな形として注目につながった。
自社Webサイトへの集約からソーシャルメディアなどへの分散へ
自社アプリへの移行が進む
一度は脚光を浴びた分散型メディアだが、その収益構造には課題があった。一般的にWebメディアは、1つのコンテンツに対してさまざまな広告を配信する仕組みの導入と配信のシステム化によって、コンテンツごとの収益性を高めている。例えば、ディスプレイ広告のRTB(リアルタイム入札)対応や、記事の段落の間に動画広告が差し込まれるインリード広告などはその一例だ。
一方、分散型メディアは広告主企業から請け負うタイアップ広告が主な収益源となる。自社の動画制作で培ったノウハウを生かして、広告主の動画広告を制作する。それをSNS上の公式アカウントを通じて数百万人に届ける。こうして対価を得る。ところが、広告主から発注を受けるたびにその都度、動画広告を制作するため手間がかかる。
また自社で制作した動画が、直接的な収益を生まないことも効率性を低下させる要因だ。というのも、SNS上に投稿した動画には、後から広告を掲載することはできない。動画の視聴回数が増えても広告収益の増加には結び付かないわけだ。
こうした課題に気づいた分散型メディア事業者の間で、収益の場をSNSから、自社で開発するスマートフォン向けアプリへと揺り戻す動きが広がっている。delyマーケティング部の小平剣也マネージャーは、「当初は分散型メディアとしてサービスを始めたkurashiruだが、開始から数カ月で収益面で課題を感じ始めた」と振り返る。delyは2016年に、スマホアプリ版のkurashiruの提供を始めて利用者数の拡大に努めてきた。そして、17年9月から広告サービスを開始して、本格的に収益化へと乗り出した。
一方、オープンエイトも、17年10月にスマホアプリ版ルトロンの提供を始めた。同アプリに広告を配信する他、アプリの利用者から直接収益を得る課金サービスの提供を始める方針だ。