デジタルマーケティングの今を理解するのに欠かせないテクノロジー関連のキーワードを事例と共に解説します。大ヒットムックから改めて紹介します。(※「最新マーケティングの教科書2018」(2017年12月14日発行)の記事を再構成)

インフルエンサ―マーケティングとは、YouTubeやInstagramで注目を集める人気者を活用したマーケティング手法。企業の商品を使ってみた動画などの制作を投稿者に依頼し、多くの視聴者に見てもらう。純広告による訴求に比べ、消費者が投稿者からのメッセージを受け入れる可能性が高い。

 もともとは、企業が商品やブランドを売り出す際、ターゲット層に影響を与える人=「インフルエンサー」を見つけ、そこにアプローチすることで好意的なメッセージを広げる手法を指していた。Twitterなどのソーシャルメディアが普及した最近では、それらをプラットフォームと位置付け、その中で注目を集めるインフルエンサーを起用し、情報を効果的に拡散させていくマーケティングを指すようになっている。

 よく知られているのが、動画投稿サイトのYouTube上で人気の高い投稿者、YouTuber(ユーチューバー)を起用した「YouTuberタイアップ広告」だ。企業が自社商品やブランドの宣伝のためにYouTuberに動画の制作を依頼するもので、2015年から日本でも急速に伸び始めた。

 企業と動画投稿者のマッチングを図るサイト「アイコンキャスト」を運営するTHECOO(ザクー、東京・目黒)が調査したところ、YouTuberタイアップ広告の動画本数は15年に1276本に達した。前年の154本と比べ、1年間で約8倍になった計算になる。

 14年までは、YouTuberタイアップ広告の出稿を検討した企業の依頼は、人気が著しく高い「スターYouTuber」に集中する傾向が強かった。しかし最近では、動画の平均再生回数が14年の26万回から翌年は13万回と半減するなど、スターほどの人気はない中堅どころのYouTuberにも企業からの依頼が増え、YouTuberタイアップ広告市場の拡大を後押ししていることが見て取れる(図1)。

YouTuberタイアップ広告のスポンサード投稿は増加

図1 YouTuberタイアップ広告(動画)の本数と平均再生回数の推移
図1 YouTuberタイアップ広告(動画)の本数と平均再生回数の推移
出所:THECOO 注:YouTube上で登録ファン数が1000人を超えるチャンネルへの投稿を対象に、動画の説明欄に企業のPR用と明記された動画の本数を数えた

Instagramも活躍の場に

 また15年から16年にかけて、日本でもInstagramが普及し、Instagram上の人気者をインフルエンサーとして起用する動きが強まってきた。同じくTHECOOの調査によれば、Instagram上で広告主からスポンサードを受けてから投稿するスポンサード投稿の数も、16年に急増していることが分かる(図2)。ファッションに加え、旅行や料理などに特化した人気者も生まれ、広告主にとって依頼しやすい状況になりつつある。

Instagram上のスポンサード投稿は増加

図2 Instagramでのスポンサード投稿数とスポンサード投稿を行うインスタグラマーの平均フォロワー数の推移
図2 Instagramでのスポンサード投稿数とスポンサード投稿を行うインスタグラマーの平均フォロワー数の推移
出所:THECOO 注:国内の公開アカウント約3000を対象に、「PR」「提供」などスポンサー表記のある投稿を「スポンサー投稿」と定義して数えた。2015年度第三・四半期から、四半期ごとの数を示した
Instagram上のインフルエンサーを新型車発表会へ招待した、メルセデス・ベンツの事例
Instagram上のインフルエンサーを新型車発表会へ招待した、メルセデス・ベンツの事例

 インフルエンサーマーケティングが普及するにつれ、広告主企業の姿勢も変わってきた。以前は、高い人気を誇るYouTuberに依頼し、リーチを確保したいと考える企業が多かったが、最近は、自社の商品やサービスに共感して、実際にそれらを使っているインフルエンサーを起用する傾向が強まっている。そのほうが視聴者からの共感を得やすいと分かってきたからだ。この先は、インフルエンサーマーケティングを売り上げに直結する手段としてだけでなく、ブランディングに活用しようと考える企業も出てくる可能性は高い。

 もっとも、普及に伴って、インフルエンサーが想定外の行動をするリスクもクローズアップされてきた。これに対し、例えばTHECOOでは、YouTubeなどの基準に準じて、こういう表現や行動は駄目という独自基準を設けて対応している。

 今後は、こうした管理の領域を含め、インフルエンサーをマネジメントする事務所の役割が大きくなると思う。今はインフルエンサーが自らをプロデュースするケースが多いが、企業のニーズに応えるには、個々のインフルエンサーの特徴を生かしてプロデュースする専門能力が重要になるからだ。

参考になる本
『自分で作れる! 効果的なYouTube広告動画の作り方』
藤川佑介著
マイナビ出版 2080円
YouTuberを起用したタイアップ広告は、広告主がその内容を100%コントロールすることはできない。ネット動画CMの作り方を学ぶことで、通常の動画広告とインフルエンサーマーケティングとの違いが分かり、インフルエンサーへの発注の勘所も分かってくる。
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