デジタルマーケティングの今を理解するのに欠かせないテクノロジー関連のキーワードを事例と共に解説します。大ヒットムックから改めて紹介します。(※「最新マーケティングの教科書2018」(2017年12月14日発行)の記事を再構成)

ニューロサイエンスマーケティングは、消費者の脳の動きを多数のセンサーなどで調べて分析し、マーケティングに応用すること。EEG(脳波)の測定や、視線の動きを追うアイトラッキングなどの方法を組み合わせて測る。動画広告の効果測定やパッケージデザインの判定などに、既に使われ始めている。

 消費者ニーズの把握のため、データを収集して予測・分析するさまざまな手法が用いられている。消費者に対するアンケート調査の分析や、小売店のPOS(販売時点管理)から集めた購入履歴の分析。最近では、GPS(全地球測位システム)などを利用して把握した、位置情報に基づく分析も、当たり前になってきた。

 アンケートなどで対象者の意識を探る第1のリサーチ、ログ収集やセンサーなどで対象者の行動を測る第2のリサーチに次ぎ、「無意識」を可視化する第3のリサーチとして注目されているのが、ニューロサイエンスを使ったリサーチだ。消費者の脳の動きをセンサーなどで調べ、人の無意識下に潜むニーズを正確に把握し、ニューロサイエンスマーケティングとして展開する。

 そのニューロサイエンスマーケティングを推進する1社、米ニールセンでは、3つの変化を計測して脳の働きを把握しようとしている。消費者の気持ちが何に「集中(注目)」しているか、「感情」がどれほど揺れ動いているか、そうした集中や感情の揺れがどれほど「記憶」されようとしているか、である。

 具体的には3つの変化を、それぞれ2つの方法で測定する。まず、消費者の頭部に32のセンサーを設置し、1秒間に500回、EEGを捉え、消費者の脳が「集中」「感情」「記憶」の領域でどれほど活性化しているか測定する。これに加えて補足手段として、集中を測るには、人の視線が何を見ているか調べる「アイトラッキング」を用い、感情を測るには、人の顔面の表情の変化から感情を推測する「フェーシャルコーディング」を使う。そして何がどれほど記憶されているかを、昔ながらの記述式レポートで補完するのだ。

消費者の反応を包括的に把握

図1 ニューロサイエンスで測定する指標と測定方法
図1 ニューロサイエンスで測定する指標と測定方法
人々は、自らの感情が動いた何らかに対して注目すると、記憶が活性化され、その記憶に基づき、何らかの振る舞いをする。これらを測定する
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動画広告の効果測定などに活用

 では、ニューロサイエンスマーケティングは実際にどのような局面に使われるのか。例えば、動画広告の効果測定。動画広告を見た人の脳の反応を時系列で追えば、どのシーンでどんな感情が湧いたか、その反応はポジティブかネガティブかが分かる。アイトラッキングを使えば送り手のメッセージを集中して見ていたかも判定できる。その結果、動画広告のクリエイティブをデータに基づいて修正することが可能になる。

 テレビCMで動物保護を訴えてWebサイトに誘導し、そこでペットの里親を募る米国の団体が、ニューロサイエンスマーケティングを使ってテレビCMのクリエイティブを修正したところ、CM視聴後にサイトを訪問する人の割合は、それ以前の133%増になったという。

 欧米では他にも、商品パッケージのデザインの良しあしの判定や、広告キャンペーンのコンセプトがターゲット層に届くかの事前判定などの局面で、使われ始めているという。

 米国の調査では、ある商品の売り上げの動きをリサーチのデータから説明できる割合は、アンケート調査だと24%だがEEGは62%、フェーシャルコーディングなどを合わせれば77%になるという。ニューロサイエンスから得られるデータは実際の売り上げと相関が高いわけだ(図2)。

図2 さまざまな計測手法による調査と市場の売り上げの相関
図2 さまざまな計測手法による調査と市場の売り上げの相関
出所:Nielsen Catalina,USA
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 ニールセンは日本でも今年(2017年)10月に計測用ラボの設備を刷新。2018年からはフェーシャルコーディングのサービスを提供する予定。日本でも、企業などが本格的にニューロサイエンスマーケティングに取り組む環境が整いつつある。

図3 人が動画を見たときのEEG(脳波)の動きの例
図3 人が動画を見たときのEEG(脳波)の動きの例
動画を見て反応した脳の動きを、EEGの動きとして集中(注目)、感情の関与、記憶の活性化を合わせて総合化し、グラフ化したもの。どのシーンで脳が反応しているかが分かる
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ニールセンが設備を刷新した計測ラボ。センサーを頭部に装着し、モニターに現れる画面を見た際の脳の反応を、EEGで測っている photo by Isao MUROKAWA
ニールセンが設備を刷新した計測ラボ。センサーを頭部に装着し、モニターに現れる画面を見た際の脳の反応を、EEGで測っている photo by Isao MUROKAWA
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参考になる本
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『届くCM、届かないCM』
横山隆治、大橋聡史、川越智勇著
翔泳社 1680円
視聴率を指標にしてきたテレビCMが今、急速な変化に直面している。視聴者のリアルな姿を捉える技術の発達によって、実際に視聴者に届くCMと届かないCMがあることが分かってしまうのだ。その技術の1つとして、ニューロサイエンスマーケティングにも触れている。